若竹ウェブ句会 選句報告

過去の選句報告
2023年 第31回(1月)~第42回(12月)
2022年 第19回(1月)~第30回(12月)
2021年 第7回(1月)~第18回(12月)
2020年 第1回(7月)~第6回(12月

特選コメントは、若竹会員に限らずほぼ全員、結社誌「若竹」に掲載されています。活字での句評も見られる毎月の購読をお勧めします。申し込みはホームページの購読案内をご覧ください。

第45回ウェブ句会(2024年3月募集)

★特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由。
★作者名は( )内に記述

5点句 食ふぐらいなんとかなるさ菜の花黄(燕太)
特選 食うことに精一杯な暮らしでも菜の花の黄に見つけている希望──荒 一葉
入選 小さい頃、黄色は「きないろ」と言っていた。なんだか元気になれる色です。──彰
入選 菜の花の黄色が眩しい。──みな子
入選 帰心・ケン

5点句 幸せはいつも普段着芋を植う(荒 一葉)
特選 平凡な日常の中に幸せを感じる作者に拍手。──燕太
特選 何処までが幸せなのか不幸なのか、長く生きていて、解りません。このお句の中身には、考えさせられました。 幸せは普通で良いのでしょうが、その、普通が解らない老婆です。──佳楓
特選 普段着は丈夫で長持ち。健やかに芋の育つように。──彰
幸せは身近なものですね。──垣内孝雄
入選 かめしち

4点句 ふるさとは遠のくばかり花大根(佳楓)
特選 故郷の親しい人々も代替わりして、少しずつ足が遠のきます。寂しげな薄紫の大根の花が気持ちを代弁しているかのように。いい句だなと思いました。──蒼鳩 薫
特選 かめしち(コメントなし)
入選 彰・ケン

4点句 ほつほつと灯る漁火沖おぼろ(みさゑ)
特選 旅情を思う。──垣内孝雄
特選 光雲2(コメントなし)
入選 百代・すーちゃん

4点句 天駆ける空の涯より初燕(蒼鳩 薫)
入選 去年初めて、燕の営巣から巣立ちまでを見ました。今年も来てくれると嬉しいです。──はなこ
入選 光雲2・みさゑ・三流

4点句 今年また飾る娘の古雛(垣内孝雄)
特選 百代(コメントなし)
入選 お雛様も春の眺めに心躍ることでしょう。──はなこ
入選 光雲2・彰

3点句 地虫出づそろそろ娑婆は安らけし(光雲2)
入選 色々な地虫が様子を伺いながら出て来る様子がユーモラスに詠まれて面白いなと思いました。私も河原で小さな砂の塔みたいなものを見つけました。──蒼鳩 薫
入選 季語と中七下五の対比が面白い──荒 一葉
入選 ケン

3点句 ひと雨にまた色を足す芽吹山(荒 一葉)
特選 また色を足す、がいい。──西村青夏
入選 みさゑ・佳楓

3点句 犬ふぐり時折膝を曲げて見る(順一)
入選 小さな花にも雄蕊や雌蕊があり、小さいなりに美しく咲いています。膝を曲げて近くから見て慈しんでいるところがいいなと思いました。──蒼鳩 薫
入選 帰心・すーちゃん

3点句 薄氷の上薄氷の走りゆく(燕太)
特選 リフレインが薄氷の疾走感を見事に描き出している。──河島八々十
入選 西村青夏・みさゑ

3点句 傘寿とは老の入り口黄水仙(西村青夏)
入選 かつては80歳は腰の曲がった隠居。いざ、自分がその齢になってみると、、。──燕太
入選 かめしち・ケン

3点句 図書館に友の句集や暖かし(帰心)
入選 嬉しいものですね。──垣内孝雄
入選 句友の句集が思いがけず図書館にあった。懐かしいような、嬉しいような。旧友の温もり。──燕太
入選 河島八々十

3点句 雨上り木の芽ことごと光り立つ(彰)
入選 光雲2・百代・三流

2点句 ひとカップごとのサイフォン春うらら(帰心)
入選 さどかし美味しいコーヒーでしょう。──垣内孝雄
入選 河島八々十

2点句 鍵つ子の二人の影や春夕焼(ケン)
入選 お母さんの戻る頃かな。──垣内孝雄
入選 帰心

2点句 水温む水の豊かな星に住み(西村青夏)
入選 かめしち・三流

2点句 鶴首の壺に納まる玉椿(垣内孝雄)
入選 形の整った句。──みな子
入選 すーちゃん

2点句 水草生ふ休耕田の取水口(百代)
特選 すーちゃん(コメントなし)
特選 みさゑ(コメントなし)

2点句 縁側の猫ながながと春の昼(蒼鳩 薫)
特選 「猫ながながと」と「春の昼」がよくあっていると思いました。──加藤春海
入選 春の夜の縁側の伸び切った猫の気持ち良さが感じられる。──みな子

2点句 春雷や現場百遍の革靴(ケン)
入選 刑事ドラマの見過ぎなのかもしれませんが、吟行的なニュアンスなのかもしれません。初雷に驚いたのかもしれません。まさに「現場百遍」の極意で俳句が上達するのかもしれません。──順一
入選 河島八々十

2点句 石(いわ)ばしる水のひかりや谿は春(彰)
入選 春になって光のあふれる渓流にはアマゴや小魚がはね、小鳥たちが舞い降りて賑やかになってくる様子が目に浮かぶようです。枕詞が効いているなと思いました。──蒼鳩 薫
入選 佳楓

2点句 がき大将勲章いっぱい春の泥(百代)
入選 泥まみれのがき大将が見える──荒 一葉
入選 西村青夏

2点句 言い訳は嘘ばかりです山笑ふ(荒 一葉)
入選 私もつられて笑ってしまいました。口語と文語がうまく混ざっていてユーモラスで面白いなと思いました。──蒼鳩 薫
入選 軽味の秀逸句と思いました。普段のちょっとした事を一句に仕立てられるように成りたいと思いました。言い訳と言うものは本当に難しいですね。有り難うございました──佳楓

2点句 三月の風チョーク画の花誘ふ(すーちゃん)
入選 春風がチョーク画の花を誘うように吹く。──みな子
入選 帰心

2点句 始発待つ残る寒さや屋根真白(加藤春海)
入選 寒明け後の余寒に春待つ暮しの景──荒 一葉
入選 春の雪なのかもと思ったのですが、常識的に考えれば、珍しい真っ白な屋根だったのかもしれません。結構な低温が伝わって来て、「始発待つ」現場性が伝わって来ました。──順一

2点句 返還の目途たたぬ島遠霞(西村青夏)
入選 そこに見えている北方領土。霞がかかって遠のくばかりだ。──燕太
入選 霞の向こうには返らぬ島影が歯痒い──荒 一葉

1点句 窓掛けを母に開けられなほ朝寝(河島八々十)
入選 三流

1点句 ミモザ咲く馴染みのナンバーかかる店(すーちゃん)
特選 馴染みのナンバーに安心できるのでしょう。ミモザが咲き冬との決別が進む中馴染みのナンバーにもう少しポジティヴな意味もあったのかもしれません。──順一

1点句 中空の春満月の底光り(みさゑ)
入選 「底光り」に惹かれました。春の観月会もあるのかもしれません。──順一

1点句 ぷんと来てぴんと飛び去る春の蠅(蒼鳩 薫)
入選 河島八々十

1点句 まだ赤よ児等に叱るる青蛙(ケン)
入選 信号無視してピョンピョン跳ねて行く蛙が児童達に叱られている様子、それを見ている作者。微笑ましい光景ですね。信号の赤と蛙の青の対比がその場を明るい色彩に仕立てたのではないでしょうか。──佳楓

1点句 ボート部の惨事いくとせ春の湖(帰心)
入選 彰

1点句 朝霞光るうろくづ金鱗湖(光雲2)
入選 すーちゃん

1点句 三月は黙とう多きあの場所に(かめしち)
特選 祷りの力を信じて、私も。──はなこ

1点句 白蓮のかはたれ時の花あかり(佳楓)
特選 春の夕暮れの白蓮の美しさが灯のようだ。──みな子

1点句 街灯の光を包む朧月(寂様)
入選 朧月の大きさがあったのかもしれません。月の包容力の高さに春灯の存在感も浮かび上がったのかもしれません。──順一

1点句 冴え返る螺旋階段にある温み(みな子)
入選 光雲2

1点句 暖よりも眩しさ避けて障子引く(三流)
特選 ケン(コメントなし)

1点句 啓蟄や出口わからぬユニモール(燕太)
特選 「啓蟄」と「ユニモール」の取り合わせに思わず笑ってしまいました。本当に地下街の出口は分かりにくいですね。俳味あふれる句。──帰心

1点句 春一番シルバーカーをよろめかす(加藤春海)
入選 百代

1点句 卒業の朝詰襟の背に翼(はなこ)
入選 百代

1点句 新若芽三陸復元が香る味(寂様)
入選 かめしち

〈俳句気まぐれエッセイ㊱ 歌舞伎の周辺〉    今泉 かの子
先月書いたのは、田峯歌舞伎。その後「ナニコレ珍百景」でも取り上げられ、子どもを支える地域の力があってこそ、と感じ入った。最後の演目は、五人の子にふさわしい「白波五人男(通称)」。それが、戦隊もの「ゴレンジャー」につながっている(石ノ森氏がアイディアを得た)という伊集院氏の弁も興味をひくものだった。
カラフルなおひねり次々春興ず           かの子
今月は「中村」にまつわる二本を観劇した。まずは御園座。藤原達也演ずる「中村仲蔵(なかぞう)」。江戸期に実在した人物である。梨園になんの縁故もない仲蔵が妬みや策謀、「楽屋なぶり」を経て、芸ひとすじ、看板役者に上りつめる、下剋上ともいえる物語だ。
足の泥厭はず高く紙風船              かの子
藤原達也は、蜷川幸雄演出の「身毒丸」の舞台以来。清浄且つ朗々たるかつての少年の声の響きに加えて、べらんめえ調の切れも鮮やか。舞台に置かれたドラムスの効果音、スローモーションで見せる踊りの斬新等々。画期的な演出に、圧巻の舞台に、拍手、拍手で、ついにスタンディングオベーションとなった。私も不慣れながら皆さまと同様、立ち上がって精一杯、拍手。そしてカーテンコール。舞台初日、役者の熱情は客席へ伝播、会場は興奮に包まれた。
蛇穴を出づ少年に変声期             かの子
この仲蔵、ドラマでは中村勘九郎が、熱血演じて芸術祭大賞を受賞している。その勘九郎らの「平成中村座」がこの三月、名古屋同朋高校で開幕。「白波五人男」の弁天小僧は、クールビューティ&ドスのきいた七之助が演じた。五人勢揃いしての「連ね」も見事。
花道の傘に「志ら波」花見月           かの子
芝居小屋となった体育館の席は、座布団一枚。隣とは、本当に腕が触れるくらい近い。たまたま言葉を交わした、広島在住という隣席の女性二人はなんと、泊まりがけで昨夜の舞台から参戦。しかも小倉公演へも足を運んだという追っかけぶり。「仲蔵」の話も出て幕間には、次から次へと話は尽きず、無条件にたのしかった。が、文字通り姦しいことでもあったか。(反省)その流れで帰りには、予約のタクシーに、私も同乗させてもらうことになった。
しびれたる足へ幸運うららけし          かの子
名古屋駅でそのまま別れるのも心残りなような気がして、でもそこは大人の分別、名前も住所もお互い聞かないまま、「またいつかどこかの芝居小屋で」と写真一枚を撮って記念とした。まさに、袖振り合うも多生の縁。
そう、縁は異なもの、味なもの。名古屋市中村区は初代中村勘三郎の生誕地とされる。その縁で同区での上演となった。えにしに呼ばれ、えにしが繋がる。
春風や初代の像の指の反り            かの子



第44回ウェブ句会(2024年2月募集)

★特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由。
★作者名は( )内に記述

9点句 春めくや小さき旅の切符買ふ(西村青夏)
特選 小さき旅の切符がとっても良かったですねぇ。佳楓
特選 小さき旅が春めくとよく調和している。燕太
入選 健やかな句。垣内孝雄
入選 電車やバス、どこへ行くにも交通系ICカードで済むこの時代。春の気配に(小さい)切符を買い「小さい旅」に出る情景がおとぎ話のようです。百代
入選 私も行ってきます。はなこ
入選 「Go toトラベル」でなく、過ぎし日の「遠くへ行きたい」。彰
入選 光雲2・帰心・ケン

5点句 良き知らせ届きし朝の初音かな(加藤春海)
特選 届いた良き知らせとは?初音の祝福が新鮮。荒 一葉
特選 西村青夏(コメントなし)
入選 タイミングの良い鴬に感じ入ったのですね。順一
入選 みさゑ・かめしち

4点句 稜線の膨らむ山や日脚伸ぶ(蒼鳩 薫)
特選 中七の「言葉」の選びの良さ。垣内孝雄
特選 みさゑ(コメントなし)
入選 春の山のなだらかでぼうとした感じがよくわかる。みな子
入選 すーちゃん

4点句 春寒し片付けなければならぬもの(順一)
特選 手元にある色々なものたち、あとどれくらい一緒にいられるのかしら。はなこ
特選 終わりの始末と理解しましたが、なかなか腰が上がりません。少しづつ…。彰
入選 帰心・佳楓

4点句 背を押され延ばす歩数や春の風(荒 一葉)
特選 かめしち(コメントなし)
入選 春風の強さ優しさが感じられる。みな子
入選 光雲2・ケン

4点句 ふらここを漕ぐや子らみな風になる(荒 一葉)
入選 「子らみな風になる」みずみずしく、優しさに包まれたいい句だなと思いました。蒼鳩 薫
入選 佳楓・西村青夏・ケン

4点句 あしかびや淡海は風の湧くところ(佳楓)
入選 淡海は風の湧くところと断定したが、説得力のある断定。燕太
入選 河島八々十・彰・すーちゃん

4点句 春来たりゆうべの豆に二羽の鳩(はなこ)
特選 小さな豆粒を啄みに、二羽の鳩が来ている朝、そこに感じる春の到来。すーちゃん
入選 豆に鳩。情景が目に浮かぶと同時に、おかしさに思わず笑みがこぼれます。百代
入選 ケン・順一

3点句 恋猫の谷中千駄木寺の町(かめしち)
入選 場所の選定が活きている。垣内孝雄
入選 河島八々十・光雲2

3点句 薄氷をほどく風音ふくらみ来(みさゑ)
入選 中七「ほどく風音」下五「ふくらみ来」独創的な表現でいいなと思いました。蒼鳩 薫
入選 光雲2・帰心

3点句 梅固し肌さす風もまた固し(西村青夏)
入選 「固し」のリフレインが効いていていいなと思いました。
「梅固し」はまだ咲いていないことと理解すればよいでしょうか。「探梅」のことなのかな。「梅東風」のことなのかな。教えていただければ幸いです。蒼鳩 薫
入選 帰心・みさゑ

3点句 春の雪授業楽しく脱線す(燕太)
特選 「楽しく」の措辞から、このクラスの児童と教師の柔らかな関係が見えてくる。ほのぼのとした句。帰心
特選 ケン(コメントなし)
入選 雪が積もれば屋外の授業と脱線しますね。楽しいです。加藤春海

2点句 ひたぶるに改札口に待つ寒夜(垣内孝雄)
特選 改札の前でなかなか来ない人をずっと、ひたすらに待っている。気がつけば、夜も更けて寒さに身は凍える。それでも来ることを信じて待つのは、家族?恋人?それとも長年の友人だろうか。想像の膨らむ句です。河島八々十
入選 誰を待っているのか。寒夜の雰囲気がよく出ている。燕太

2点句 青鷺のぬき足さし足春に入る(燕太)
入選 青鷺の春の初めの感じがわかる。春に入るが良い。みな子
入選 佳楓

2点句 寒雀丸くまあるく真ん丸く(かめしち)
入選 「まるく」の表現が「真ん丸く」で言い切れている。垣内孝雄
入選 寒雀の丸さがわかる。繰り返しが、生きている。みな子

2点句 友二の忌大石に置く鳥の餌(順一)
入選 「友二の忌」との取り合わせに惹かれる。垣内孝雄
入選 すーちゃん

2点句 流木は白竜のごと春疾風(すーちゃん)
入選 加工された木だったのかもしれません。順一
入選 荒 一葉

2点句 一輪の梅の開花や謝恩会(加藤春海)
入選 みさゑ・彰

2点句 横着を一喝したる春の雷(みさゑ)
特選 虫出しの雷や、初雷、啓蟄などが思い浮かびました。横着を春の雷が一括する図、日本人にも神の観念、特に一神教の観念があるのかもしれません。八百万の神を思い浮かべれば、ちょっとユーモラスな感じもするのですが。順一
入選 春雷に気を取り戻し重い腰を上げました。加藤春海

2点句 春潮や磯の藻草(もぐさ)の揺蕩(たゆた)ひて(彰)
特選 「春潮」いいですね。きらめきがあり、薄緑の海藻が揺れている。春磯波音、情景が鮮やかに浮かんできました。蒼鳩 薫
入選 春の磯の長閑さがよい。荒 一葉

2点句 出不精の八十路を誘う春の風(かめしち)
入選 荒 一葉・西村青夏

1点句 切干や伊吹おろしを袋詰め(百代)
入選 そうすると、昆布の袋にはどこかの浜の潮騒が…。はなこ

1点句 能登を向き目瞑り齧る恵方巻(寂様)
入選 能登の大きな地震にはいつまでも、胸が痛みます。どんなにか辛く悲しい事でしょう。佳楓

1点句 雨上がる冬芽の零す陽の欠片(光雲2)
入選 彰

1点句 立春の家路を急ぐ尾灯かな(彰)
入選 行き交う車にその行き先を想像することは有りますが、「尾灯」にグッときました。百代

1点句 如月の光あふるる波しぶき(蒼鳩 薫)
特選 二月の明るい日の感じがよくわかる。みな子

1点句 字余りに指折り返す夜半の冬(荒 一葉)
入選 まさにそのとおりだなと共感です。「夜半の冬」がいいですね。苦心しながらも静かな時間が流れていくいい句だなと思いました。蒼鳩 薫

1点句 積雪の深みに潜む海の青(はなこ)
入選 かめしち

1点句 針収め古びし妣の鯨尺(加藤春海)
入選 針収めに妣への供養が重なる。荒 一葉

1点句 雪解水吹きあぐ能登の棚田かな(ケン)
入選 すーちゃん

1点句 手加減のあるは世の常大石忌(佳楓)
入選 順一

1点句 縄跳びの声も弾むや春立ちぬ(西村青夏)
入選 かめしち

1点句 山息吹く節分草の六合目(彰)
入選 下五の「六合目」に、眼前の視界やそこまでの道のりなど想像が広がります。百代

1点句 けたたまし天突く觜や鶴の舞(ケン)
特選 光雲2(コメントなし)

1点句 石專掻く目視雲量三の空(佳楓)
特選 「石專」は「石蓴(あおさ)」と理解し、「あおさ掻く」という収穫法を知りました。空を気象用語の数値で表されたことに、海の作業の厳しさを思いました。百代

1点句 特養や母やはらかく豆を打つ(帰心)
入選 母やはらかくが行き届いた。燕太

〈俳句気まぐれエッセイ㉟ 田峯歌舞伎〉     今泉 かの子
奥三河、設楽町の田峯小学校が今年四月、統合されることになった。全校児童は五人、百五十年の歴史に幕を閉じる。
この地区には一つの霊験伝説が伝わっている。江戸時代、焼失した寺を再建するため、天領と知らず村人が木を伐採。それが発覚し、旧暦六月、代官が検分にやってくることになった。その咎をおそれた村人は「お助け頂ければ、家が三軒になるまで歌舞伎を奉納します」と願をかけた。すると、検分当日、大雪が降って代官らは御用林に入れず、結局罪人を出さずに済んだ、という。
以来、約束を守り、毎年田峰観音の大祭には歌舞伎を奉納するようになった。住民たちが自ら演じて、四百年近い歴史がある。また、子ども歌舞伎も学校行事として取り組まれ、海外公演も行ってきた。
私事で恐縮だが、法曹の道に進んだ娘は一年間、米国イリノイ大学で研究生活を送った。今から七、八年前のことである。同大学には、日本的佇まいのジャパンハウス(日本館)があり、日本文化の発信を積極的に行っている。訪米の折には実際に、浴衣を着た碧い目の学生らが、茶道のお点前やしずしずとお運びをする姿を目にした。また、書道のパフォーマンスや津軽三味線、盆栽実演など、技が光る「やまと心」が記憶に残っている。
イリノイにむすぶ二重の春の虹          かの子
一人、慣れない土地で娘がお世話になったのは、米国人と結婚されイリノイ在住の日本人女性、サイコさん。同大学の技術者で、交流サークルで出会い、お宅に招いて頂くなど、親切にして貰ったようだ。
あるとき、そのサイコさんが以前、イベントで撮ったという写真を娘に見せ、できたら写真の本人に渡したい旨を話された。それは、歌舞伎上演の際のスナップ写真、十数枚。それがなんと、田峯歌舞伎御一行、面々の写真だったのだ。かくして、娘に手渡された。
この不思議とも思えるつながりに驚く。約三十年の時を隔てて、愛知の山奥の小さな集落と、米国イリノイ州の一点がつながった。「たまたま」観て、「たまたま」出会って、「たまたま」話して、「たまたま」つながった。おそれ多くも畏くも、この偶然。
その後帰国した娘から私の元へ。私の手を通じ、知り合いの方から、手渡してもらうことにした。
今年の二月の第二日曜は、例年になく暖かい日だった。小屋掛けまでしての上演は、四年ぶり。閉校に伴い、子ども歌舞伎は今年が最後の公演となった。カラフルなおひねりも景気よく飛んで、拍手喝采。今後は大人の舞台に子役として出演していくことになるという。     この奉納された日の夜更け、雪が降った。やさしい雪だった。
田峯歌舞伎奉納の夜や春の雪           かの子

 



第43回ウェブ句会(2024年1月募集)

★特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由。
★作者名は( )内に記述

8点句 父よりも母よりも生き年酒酌む(西村青夏)
特選 人生百年時代!お元気で頑張って下さい。みさゑ
入選 父母の享年を時として思う。垣内孝雄
入選 長生きをされていることにつつましやかな恥じらいも感じられていいなと思いました。誠におめでたいこととお慶び申し上げます。ますますのご健勝をお祈り申し上げます。蒼鳩 薫
入選 光雲2・帰心・こう子・佳楓・かめしち

7点句 やはらかき土のにほひや若菜摘(蒼鳩 薫)
入選 早春の土手の景がありあり。荒 一葉
入選 「土のにほひ」に魅かれる。燕太
入選 百代・彰・佳楓・ケン・かめしち

5点句 数減っていよよ尊き年賀状(百代)
特選 加齢にともない賀状も少なくなります。数少ない賀状が嬉しいもんです。加藤春海
入選 ほんとにそうですね。こう子
入選 帰心・佳楓・かめしち

4点句 負け独楽の笑って止まる最後かな(佳楓)
特選 中七の「笑って止まる」がまことに秀逸。燕太
入選 「笑って止まる」の措辞が的確。荒 一葉
入選 すーちゃん・ケン

4点句 手水舎の青竹に射す初日かな(加藤春海)
入選 気持の良い句。みさゑ
入選 百代・荒 一葉・三乗

3点句 おみくじを引かぬと決めて初詣(寂様)
入選 これもまた良し。垣内孝雄
入選 彰・こう子

3点句 朝焼けの光ゆがめて軒氷柱(三乗)
特選 光雲2(コメントなし)
入選 「光ゆがめて」が観察と写生が効いていていいなと思いました。蒼鳩 薫
入選 百代

3点句 日の方へ微かに歩む冬の蝶(蒼鳩 薫)
特選 「微かに」の措辞が秀逸。「冬の蝶」を自分の身に置き換え、元気をいただいた。帰心
入選 荒 一葉・みな子

2点句 年玉にみかん頂く喫茶店(みな子)
入選 すーちゃん・帰心

2点句 身に叶ふ生き方通し古女噛む(佳楓)
特選 清廉潔白に生きて来られたのでしょう。十七音に凝縮した人生観が感じられていい句だなと思いました。蒼鳩 薫
特選 私も「身の丈を知る」という言葉が好きです。季語がいいですね。こう子

2点句 寂庵の一穢なき庭風花す(みさゑ)
入選 きれいな一句、風花との取り合わせがよい。燕太
入選 寂庵の清らかさが、わかる。みな子

2点句 銘柄を問うて一献女正月(加藤春海)
入選 お酒にこだわるお方ですね。垣内孝雄
入選 こう子

2点句 この町に住み五十年明の春(西村青夏)
特選 気に入られた町なのですね。垣内孝雄
特選 かめしち(コメントなし)

2点句 上り番(あがりばん)の背中に申す御慶かな(燕太)
特選 職場での正月の生活感が伝わる。荒 一葉
入選 「背中」に思い入れがあると思いました。人の背中が自分が言った事に反応していたのかもしれません。順一

2点句 初茜除々に明らむ絵馬の数(加藤春海)
特選 初日がさして広がっていく様子が、明るくなっていく絵馬の数に表され、めでたさがより具体化、視覚化された。すーちゃん
入選 茜に染まる日の出とともに、境内が明るさを増し、数多の絵馬が色鮮やかに浮かび上がっていく情景がいいなと思いました。蒼鳩 薫

2点句 鳥の眼を避けて寒鮒群れてをり(帰心)
入選 寒鮒の有り様がよくわかる。みな子
入選 百代

2点句 戦場のバンクシイの絵風光る(ケン)
特選 春の季語ですが内容と季語が合っているような気がしました。順一
入選 光雲2

2点句 一人芝居女演者の声冴ゆる(こう子)
特選 女演者の声の寒く感じるほどと思う。みな子
入選 光雲2

2点句 子育てを悩む娘やみかん剥く(こう子)
入選 聞き役に徹する母親の心情。燕太
入選 彰

2点句 渚にて風拾ひゆく千鳥かな(光雲2)
入選 「風拾ひゆく」に発見と独創的な俳諧味があり、いいなと思いました。蒼鳩 薫
入選 三乗

2点句 生ゴミを土に還かえせば除夜の鐘(百代)
入選 コンポストと言うのか、肥料転換を願っていたのかもしれません。除夜の鐘で108の煩悩が自分の身から削ぎ落とせたのかもしれません。順一
入選 ケン

2点句 受験票空にシリウス手にココア(はなこ)
入選 昔の自分みたいな鬱屈が無く、うらやましい。明るい受験生励みなされ。彰
入選 三乗

1点句 マフラーの幼かけよるコロッケ屋(垣内孝雄)
入選 帰心

1点句 冬ぬくし爪切り上手な介護仕さん(佳楓)
入選 ユーモラスですね。「介護士さん」と言う座五に感心しました。順一

1点句 四温晴庭木の手入れでもするか(西村青夏)
特選 ほっと暖かい気持ちになりました。はなこ

1点句 無人駅ホームにぽつり雪だるま(垣内孝雄)
入選 殺風景な無人駅に心温まる雪だるま。みさゑ

1点句 寒月や凛と紅ひく京女(ケン)
入選 光雲2

1点句 七草のさみどりの香の朝餉かな(荒 一葉)
入選 三乗

1点句 人日の煙や畑にものを焼く(すーちゃん)
入選 佳楓

1点句 神島も伊良湖も見ゆる初景色(燕太)
入選 すーちゃん

1点句 朝靄の低く立ち込む飛騨は冬(こう子)
入選 すーちゃん

1点句 八十路故慣れぬスマホの初電話(かめしち)
入選 微笑ましい。燕太

1点句 聞いてやるだけの励まし蜜柑剥く(荒 一葉)
特選 佳楓(コメントなし)

1点句 人の日に目覚めよ我の前頭葉(帰心)
入選 ケン(コメントなし)

1点句 凍星や涙はいつも新しい(すーちゃん)
特選 中七から座五にかけての口語表現が効いている。上五の切れ字とよく響き合っていると思います。三乗

1点句 依代の千年杉の淑気かな(みさゑ)
特選 新年の身の引き締まる感じが、伝わります。百代

1点句 うなさかを離る初日の膨れやう(みさゑ)
入選 初日の膨れたような様子がわかる。みな子

1点句 後ろから肩叩かるる年の暮(すーちゃん)
入選 「お疲れ様」のご挨拶。垣内孝雄

1点句 水仙の土手にあふるる日影かな(蒼鳩 薫)
特選 とにかく冬は日差しがうれしい。そこに水仙あればなおさら。彰

1点句 初乗りはスマホのマップと総武線(かめしち)
入選 スマホでよく確認して、首尾よく目的地に着いたのかもしれません。順一

1点句 そつとおく夜食のおでん丸ばかり(ケン)
入選 頑張りが報われることを祈って。はなこ

1点句 年明けて手術に備え年賀観る(寂様)
特選 ケン(コメントなし)

1点句 子ら帰りそそくさと去るお正月(荒 一葉)
入選 独立は喜ばしいことだけれど…。はなこ

1点句 湯湯婆の湯沸く間にもスクワット(燕太)
入選 隙間時間でも積もり積もれば立派な運動ですもの。みさゑ

〈俳句気まぐれエッセイ㉞ 大会前日〉      今泉 かの子
去る一月二十日は、「若竹」創刊千百号の記念大会の前日。この日、私は来賓の先生方を西尾駅で出迎える係になった。予定されていた方の都合が悪くなり、たまたま私にその役が回ってきたのだった。
到着時刻は十二時十一分。西尾着の時刻に合わせ、鳴海駅より乗車した。重責の一端を担うつもりで。四両車両のどこかに、岸本尚毅先生と黒岩徳将先生が乗っているはずと、一両ずつ見て行った。それらしき年恰好の方はいるのだが、どうも違う。やはり御姿は見えず。二十五分間、不安とはてな?が飛び交ったまま、下車。
西尾駅改札口では、K氏が待っていて下さり、そこで初めて既にお二方とも早くに到着されていることを知った。そして車でお越しの来賓の方も合流され宗也主宰と共に、昼食場所へ向かっているとのこと。ああ、こんなことならもっと早く、家を出ればよかった。充分出られたのに。
そして、改札を出ようとしたときになって、自分の携帯がないことに気がついた。携帯のカバーにマナカのカードが差し入れてあるのだ。ポケットにもかばんの中にも、ない。何度見ても、ない。そして、ようやくこの事態を理解した。電車の中に置き忘れたのだ。私は、自分自身に深く絶望した。終わった。粗忽ものではあるけれど、ここまでだったのか。やんぬるかな。
大寒の電車に残るスマートフォン          かの子
とりあえず、西尾駅の駅員さんに車中にスマホを忘れたと話し、その電車に置き忘れていないか、確認してもらうことになった。その間、K氏は慌てず騒がず、改札の柵越しに共に待っていてくださった。ホント、ありがたや。結局、スマホは無事に見つかり、吉良吉田駅保管となり、落着した。
失意のまま、K氏の車で昼食のお店へ向かうべく、駐車してあるビルの四階へ向かった。この辺に停めたはず、とK氏は言うのだが、車は見当たらない。階を間違えたのでは?との疑念から、五階へ。私もいっしょに赤い色を頼りにうろうろ駐車場内をまわったが、ここにも見当たらず。もしかして、というか、やっぱりとの思いで再度、四階へ。思っていた所とは違う、遠い所にK氏の愛車発見。
あるはずの影そこになく寒かはる          かの子
そして、やっとのことで昼食場所へ。大遅刻に平身低頭したが、岸本先生は、あの穏やかな笑顔で「逆にありがたみがわかりますねぇ。」黒岩先生はびっくりされつつも、「いやぁ、あって本当に良かった。」と親身に。また、宗也主宰も「事故じゃなくてよかったよ。」といつもの鷹揚さで。さらに、誠実さを誇る中村雅樹先生は「駐車場、僕もやりましたよ。」とこれまた、お優しい言葉で。
ああ、思えば、出迎えるとは駅にいることで成立するのだ。わが失態はそこからだった。
簡単に初心忘れて初写真              かの子