第31回若竹俳句賞

《 正 賞 》

大 提 灯

岡 田 つばな


御柱立ち大提灯の町となる
若祢宜も雑巾がけや祭来る
かぐらさん押す大汗の力瘤
御渡西風大提灯を吊り上げる
空を得て武者絵が息ぶく大提灯
警官の詰所へも寄る赤とんぼ
提灯祭百余の漁船休ませて
はぐれ鵜の低く行けるも秋の影
梶の葉揺らす御諏訪社の大太鼓
御神殿狭しと並ぶ新走り
大提灯月を隠してしまひけり
虫の音や大提灯の灯の揺るる
熱き息吐かせて畳む大提灯
大提灯覆ひ降ろしも手こずりて
大提灯降納秋へ一気かな

《 佳 作 》

水 澄 め り

水 野 幸 子


古里の水の匂ひの芹を摘む
初蝶やふんはりかはく嬰のもの
九十の母すこやかに花菜漬
思惟仏の眉のやうなる春の月
ふり返る度に手を振り鳥雲に
母と子の旅の八十八夜かな
星ふえて蛍は草に沈みけり
幸せのままで終りぬ酔芙蓉
落ち鮎に山河の色の残りけり
ここよりは色なき風の奈良井宿
秋興や音かろやかにねずこ下駄
秋思ふと琥珀の色の阿六櫛
さはやかに指のふれ合ふ道祖神
木曾谷の夕日をあつめ曼珠沙華
アルプスの空より青く水澄めり

《 佳 作 》

凍     蝶

島 崎 多津恵


凍蝶の光となりて夢殿へ
冬の蝶祈りのごとく翅たたむ
寺風の煽りによろけ冬の蝶
冬の蝶俤堂に翅閉ぢて
凍蝶に情け薄日の射しゐたり
裂けし翅大事にたたむ冬の蝶
汚れなき蝶なり凍ててをりにけり
凍蝶に触れれば蒼き翅うごく
冬の蝶翅をたたんで神隠れ
凍蝶の薄紙のごと生きてをり
凍蝶や不意に落ちたる衣紋掛け
凍蝶のおなじ処にゐて幾日
凍蝶の掃かれて塵となりゆくも
凍蝶の仮寝や薪を褥とし
凍蝶に夜は光輪の照らさるる

《 佳 作 》

しまなみ紀行

中 井 光 瞬


浜小屋に乙女の日傘かけてあり
満天の星の海月になりたき夜
新涼や網の目新た回遊魚
天職は蛸漁と言う壷を干す
神鏡に舟音とどく十三夜
有明の船より降ろす縄梯子
小春日や伊予の札所の仏たち
鰯干し初めて島の嫁となる
橋架かる島の暮らしや新松子
島舟や一日なまこに費やして
島裏の良き風と知るこぼれ萩
百千鳥長靴船で履き替える
島々をつなぎし空を海猫帰る
船の水尾受けて岸寄る冬鴎
水軍の島に墓標の時雨石

《 努力賞 》

蝦 夷 の 秋

酒 井 英 子


直線道なれど波打ち秋闌くる
水澄める支笏の底の鱒の群
熊を彫るアイヌの黙や秋気澄む
口琴の音色に魅かれ秋の宵
冷まじや硫気噴き出す地獄谷
湯を浴びて踊る赤鬼街を練る
昭和新山見ゆる高きに登りけり
おどろしき羆の奥歯いなつるび
鼈甲のさま冷まじき熊の爪
蝦夷富士の裾果てしなく稲架を組む
掘りし芋帯なし羊蹄山の裾
牧は秋駝鳥呻きつ卵生む
天高し駝鳥は卵転がして
秋夕焼激浪に立つ神威岩
新涼や小樽運河の灯のゆれて

《 努力賞 》

初夏の馬場

新 部 とし子


葉桜や馬事公苑の白き埒
麦秋や馬屋に流るるクラシック
観衆の木椅子に余花のうす明り
軽暖やパドックの馬息弾む
嘶きは薫風に乗り麓まで
青嵐白馬の尻尾梳る
日焼顔一礼をして馬場に入る
常歩の蹄軽やか風光る
ギャロップの騎乗青年汗きらり
競技了へ騎馬戛戛と五月晴
労ひのバケツ一杯砂糖水
馬の音撫づる背伸びの夏帽子
甘噛みの愛馬諫むる水鉄砲
馬運車の冷房効かせ遠征へ
新樹蔭厩舎の傍に畜魂碑

《 努力賞 》

松 山 の 旅

三 矢 らく子


夏つばめ正午の鉄道唱歌かな
夏雲やおほきな子規の句碑拝む
子規堂
青かへで子規勉学の三畳間
鳴雪の鬚の塚あり大百足虫
子規記念博物館三句
子規七才ちよん髷結ひて跣足かな
愚陀仏庵漱石子規の汗もらふ
ブロンズの子規撫で余生涼しうす
萬翠荘涼しパネルに若竹誌
焼餅をほほばり夏の遍路寺
湯上がりや簾の風も道後の湯
坊ちゃんの間やおばしまに照る西日
振鷺閣太鼓打つなり夏の月
日台観光サミットイベントのオブジェ
野球青年子規ランタンに宵の夏
一会とは義安寺蛍に逢ひしこと
十薬や一草庵の井戸に蓋

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