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句集「緋の色」紹介

酒井英子 句集「緋の色」

序 加古宗也
跋 田口風子

緋の色を根より授かり染始

黒南風や天気図を貼る染工房

うっかりすると見落としてしまいそうな「染め」の勘どころをぴたりと押さえた句だ。教員・主婦・福祉の人、そして、染色家。さらに俳人とめまぐるしい日常を過ごしながら、社会問題にも関心を怠らない人、それが英子さんなのだ。
加古宗也(「序」より)

緋の色を根より授かり染始

黒南風や天気図を貼る染工房

染師には勘といふ技片時雨

てふてふの触るるを恐れ伸子張

きはちすや機音残る丹後径

冷まじやインカ帝国文字もたず

マチュピチュの巌頭に座し霧まみれ

ひめゆりの塔に菊抱く夫を見し

母の座にもどる教師や大根提げ

夜濯ぎや子のポケットに石一つ

加古宗也抄出

第34回若竹俳句賞

《 正 賞 》被 爆 樹   中 井 光 瞬

啓蟄や動かぬものに爆心地
たんぽぽの絮爆心の風に乗り
炎立つ原爆ドームの荒骨に
爆心の大樹の底に蟻の国
夏木立平和の鐘が包容す
雲の峰被爆ピアノのフォルティシモ
原爆忌残りし空は藍の色
被爆樹の光をつなぐ夏の蝶
爆心へ白き流燈さかのぼる
黒き雨滲みた畑打つ原爆日
顔洗ふだけの化粧や原爆忌
爆心の未明のひかり母子草
原爆忌継ぎ足す息は美しき息
原爆忌水子地蔵に水掛けて
涙壺いくつも置いて原爆忌

《 準 賞 》泣き相撲    乙 部 妙 子

泣き相撲幟立てたる朱夏の宮
宮涼し土俵設ふ神楽殿
裸子の抱かれて受ける祈祷かな
化粧まはし襁褓の上に泣き相撲
泣き相撲絃(いと)ちゃんの四股名「絃(いと)の丸」
抱かれて小さな裸向かひ合ふ
泣きつつも母を目で追ふ泣き相撲
そり返り足蹴り上げて泣き相撲
見守りの親も涙目泣き相撲
泣き顔の勇姿カメラに泣き相撲
泣かぬ子を泣かす行司の夏烏帽子
泣き声の土俵いよいよ宮暑し
泣きに泣いて裸子命輝かす
両泣きはすべて引き分け泣き相撲
泣き相撲まだしやくり上ぐ母の胸

《佳 作》追憶の東京   天 野 れい子

新内の撥小刻みに風花す
角巻や遊女の塚に万の骨
寒月の投込寺に荷風の碑
鳩の街の質屋のトタン荒びて冬
路地奥はかつて赤線おでん売る
数へ日の路地尊といふ防火井戸
カストリ書房の真白きのれん小春風
おしくらまんぢゆう平積みのカストリ誌
絵襖や腰を落として太鼓持ち
幇間のひとり二役冬ぬくし
布団干す江戸の足袋屋の竹庇
手拭ひの赤富士足袋となりにけり
薬莢の一ツ百円ぼろ市に
ぼろ市に隣る代官屋敷かな
寒きびし切腹の間の薄畳

《佳 作》十 三 夜   中 野 こと葉

日脚伸ぶ小さき剣士の切返し
蕗の薹出づまつすぐに判を押す
百塔の街アネモネの天鵞絨(ビ ロード)の蕊
龍天に飲みたき詩の蜜酒かな
蟷螂生る薄日差すモビールの糸
大瑠璃は腹の白さのやうに鳴く
四寸の小鹿田(おんた)の茶碗豆ごはん
セロ弾きの半音低き葉月潮
吾亦紅三時間待つ停留所
早足のおこぼの鈴や十三夜
紅玉の艶めく小さき嘘をつく
十二月八日モノクロムの車窓
「スクルージ」呼ぶ声幽かなる聖夜
冬すみれ早産の児の柔き爪
春隣息を合はせて弾くカノン

《努力賞》四  国    白 木 紀 子

讃州に入ればうどんと秋の昼
本殿へあと百段や秋驟雨
墱八百上りて秋の虹に会ふ
肝冷ゆるへつぴり腰のかづら橋
祖谷渓の茶店に炙る鯇魚(あめのうを)
沈下橋へ行く径少し彼岸花
自動車の来たり秋暑の沈下橋
秋出水引き四万十の屋形船
身に入むや 婉といふ名を聞きてより
門一歩出るを許さずそぞろ寒
土佐浦に藻塩焼く小屋秋曇り
秋興や藁どつとくべ鰹焼く
ポスターは手作り秋の牛合せ
秋涼のアーケードに買ふ餡タルト
地の人とひとつ湯舟や秋灯

《努力賞》備 前 焼   山 田 和 男

風光る窯跡残る美術館
春風や丘に平安窯の跡
掘抜きの窖窯(あながま)褪せる炎天下
とんばうや池に五本の石柱
織部をと粘土を捏ぬる秋一日
涼新た粘土を捏ねる指の触
秋深し見込みの深き茶碗かな
名月や備前茶碗の檜垣文
備前茶入福神といふ良夜かな
秋涼し徳利に黄胡麻瀑布垂る
花入れが化して徳利秋の興
としわすれてふ徳利は古酒入れる
備前は秋聖絵にみる米俵
爽やかに規範を越ゆる備前焼
ふくよかな胴部の茶入あたたかし

《努力賞》木曽の里    小 柳 絲 子

山笑ふ手動と知らぬ乗車口
陽光を集めて孤独すすき原
風なごむブルーベリーの冬紅葉
バス待ちの小屋に絣の小座布団
眼に安し軒に薪積む木曽の冬
雪晴れや御嶽あはれ美しき
寒いでと頂く熱きすんき汁
白樺林に縞馬をふと冬日和
綿虫や牧場へ延びる道一本
風花や熱く脈打つ馬の腹
馬の肩叩けば埃冬日向
水洟一筋馬に大きな鼻の孔
動かざる風邪馬時に嘶ける
冬夕焼けまぐさ提げ来る髭男
榾の火のかさと牧場の馬寝たか

《努力賞》秋 の 海   長 坂 尚 子

潮風に吹かれ秋声聞いてをり
波音の胸に響ける秋の海
秋潮に心惹かれつ飛沫受く
母子遊ぶ浜に波寄す秋の昼
貝殻を選りつつ拾ふ秋浜辺
流木のどこより来しか秋の浜
半島の沖に神島野分立つ
秋男波岩壁打ちて立ち上がる
突堤に釣人の影秋の夕
波音に心の澄めり秋夕べ
秋夕焼波はつかのま淡く染む
秋落暉たちまち海に吸はれゆく
月明に照らされてをり安らげり
伊勢湾台風時の残骸が蛭子社に
難破船の錨社に身にぞ入む
三河湾に住み鯔飛ぶを見てをりぬ

◇中止のお知らせ◇

令和三年 若竹新春俳句大会・表彰式
中止のお知らせ

新型コロナウイルスの第三波が、深刻さを増してきております。したがいまして、一月十七日(日)に予定しておりました新春俳句大会を中止することにいたしました。
入賞者の表彰(若竹俳句賞・大会募集句・新報俳壇賞)につきましては、12月号で開催と掲載されましたが、中止になりました。

若竹吟社
主宰 加 古 宗 也

三師を偲ぶ会 報告

鬼城・うしほ・潮児 三師を偲ぶ会

▽日時:2020年(令和2年)9月17日(木)
▽会場:西尾市総合福祉センター4階
▽主催:若竹吟社

去る九月十七日、「鬼城・うしほ・潮児 三師を偲ぶ会」が西尾市総合福祉センターで開催されました。コロナ禍の影響により、定員をしぼっての開催でしたが、充実した秋の一日となりました。

特に今回は、加古宗也主宰の講話が企画され、「若竹」の師系について、身近に知る良い機会となりました。その講話内容や句会の様子等、詳しくは「若竹」俳誌に掲載される予定です。当日の講話の様子は、下の動画から観ることができます。どうぞ、ご覧ください。

 


※ 宗也主宰の声の感じ(マイクを通した)や、当日会場にお持ち頂いた貴重な掛け軸もご覧になることができます。

新春俳句大会について

毎年、恒例の新春俳句大会ですが、今年はコロナ禍の影響もあり、今のところ宿泊は取りやめ、日帰り日程になる見込みです。

多くの会員の方が、ご自分の体調や外出のリスクを考え、出席を勘案されると思います。たとえ、出席がかなわなくても、どうか事前の募集句の方には投句して頂きたいと思います。会員の皆さんの投句料で会の運営をしています。「若竹」十月号巻末に綴じてある投句用紙を使用し、どうぞご協力ください。

新春俳句大会募集句担当 今泉かの子

三師を偲ぶ会 案内

鬼城・うしほ・潮児 三師を偲ぶ会

▽日  時
九月十七日(木) 午前十時より受付
▽会  場
西尾市総合福祉センター4階(花ノ木町)
▽投句締切
正午(当季雑詠二句)
※参加者は天賞一点ご持参下さい。

▽講  話 午後一時より
▽句  会 講話後
▽会  費 五百円(昼食各自用意)
お茶一本用意します。
▽申し込み
荻野杏子宛
〒四四四─〇八七四
岡崎市竜美南三─六─七

※「若竹」の師系について、今回より加古宗也主宰の講話がシリーズで始まります。「若竹」の伝統を学ぶ絶好の機会です。
※コロナ禍の影響により先着三十五名にて〆切ります。各自のはがきにてお申し込み下さい。

主催 若 竹 吟 社

句集「若菜摘」紹介

工藤弘子 句集「若菜摘」


上州の歴史の深さと長さーそれを弘子さんはゆったりと、それでいてしかっりとつかまえている。妙な力みを持たない人だからだと思う。

<加古宗也・(序文)帯文より>

加古宗也抽出12句

毛糸編む男の夢の端にゐて

手足凍てきし重監房の跡地

冬あたたか盲導鈴は語るごと

神還る毛野に五つの活火山

友の輪へ行つたきりなり卒業子

逢へば子のふと眩しくて春の雪

断乳の胸熱からむ夜の濯ぎ

初厨ふたりの嫁に挟まりて

浅間嶺の風の色被て凍豆腐

嬬恋の星をいただき芋煮会

湯の街や夜霧の底に硫黄臭

道広く掃いて煤の日終りけり

 

第33回俳句若竹賞

《正 賞》
渡 辺 悦 子      「栗生楽泉園」
《準 賞》
水 野 幸 子      「父と子」
《新人賞》
中 野 こと葉      「気 配」
《佳 作》
酒 井 英 子      「出雲新涼」
《努力賞》
島 崎 多津恵      「朝 凪」
岡 田 つばな      「形 代」
山 田 和 男      「光 陰」
高 山 と 志      「割烹着」


《 正 賞 》栗生楽泉園    渡 辺 悦 子

重監房跡地へ巣くふ蟻の塚
再現と知るも身に入む房の闇
監房の声なき叫び地虫鳴く
すがれ虫南京錠の幾重にも
冤罪てふ展示記録の冷まじき
秋声や観音寂びる焼場あと
野ざらしの大釜二つ赤のまま
小鳥来る撞く人のなき鐘撞堂
プロミンの秋光まぶし交流館
鬼籍名の増えし九月の納骨堂
実名を捨てし残生木の実落つ
看護師の声掛けやはき秋すだれ
鳥渡る偏見の棘取れぬまま
語り部の瘢痕流し秋の雨
秋澄める盲導鈴の目覚めかな

《 準 賞 》父 と 子    水 野 幸 子

西行も曾良も旅人鳥雲に
少年に山河の匂ひ五月来る
俎を男も使ふ麦の秋
草笛を吹く少年とその父と
灯台の女神めきたる夕の虹
海を見に来てゐる父の日なりけり
ハンカチを開きしごとく菖蒲咲く
残る人去りゆく人に月涼し
母よりも父恋ふ秋の蛍かな
能面の笑みに秋思のこぼれけり
秋の灯をともして暗き合戦図
媛山に仕へて鹿の鳴く夜かな
蟷螂の目に夕ぐれの海の色
星流る一つは遠き岬の灯
父と子の月日を重ね水澄めり

《 新人賞 》気 配    中 野 こと葉

天文時計鳴るモルダウの朧かな
風信子青くあなたの香となりぬ
時差ぼけの卯月ルソーの「夢」に入る
梅雨晴れてお宮参りの子の産毛
額の花チェロ八分の一サイズ
漆黒の亀の子の瞳に見つめらる
雑踏の顔顔顔や半夏生
かなぶんと電車を降りて金曜日
雷の前の一瞬犬立てり
人体のしくみの図鑑晩夏光
底紅の底見ゆ風の停留所
花柊少女はサンドバッグ打つ
冬ざれやオレンジの洋酒を少し
父と二人やふうふうと根深汁
指長きリストの楽譜冬日向

《佳 作》出雲新涼    酒 井 英 子

国引きの神話の浜や秋気澄む
秋風に吊して草履売る茶店
拍手は四つ大社の秋気張る
神楽殿の巨大注連縄風さやか
宍道湖の夕日柱や秋気満つ
秋蜆掻くや鋤簾(じょれん)に船傾ぎ
池の上に二人乗り出し松手入れ
命綱つけ松手入れ上枝から
秋興や泥鰌掬ひは縁結び
秋気満つ腕の太さの舫ひ綱
堀川に橋二十ほど雁渡し
屋根下げて秋の遊船橋くぐる
菊の香や八雲書斎の高机
八雲忌や楽の茶盌の大ぶりな
秋興や八雲の好きな長煙管

《努力賞》朝 凪    島 崎 多津恵

朝凪や輪島の海の真っ平ら
能登の灯を海に沈めて銀河濃し
海桐花咲く一両電車で巡る能登
銀漢の果てなくつづく能登の浜
ホテルの灯火蛾の灯となり更けにけり
蓼の花咲かせて能登のどんづまり
能登の海渚を月と走りけり
遠き灯は闇の綻び星流る
潮騒の一夜の宿や銀河濃し
寂しさに恋してしまう夏の月
千枚の棚田にそそぐ月明り
漆黒の遠流の島星流る
奥能登や砦のごとき風囲い
石文や能登の海鳴り夏の月
夏鶯倶利迦羅谷の昏きより 

《努力賞》形 代    岡 田 つばな

端濡れて水無月祓ひの案内来る
どしや降りの名越の宮となりにけり
受付は村の信徒よ夏祓
形代の和紙の薄さよ小ささよ
傘とかさ重なりおうていて夏越
雨音に消されさうなる名越かな
形代に力を込めて書く名前
形代を撫づ親指の腹をもて
形代に母の名前を書き足しぬ
形代や川音激つ神の元
神官の手より形代風に乗る
神官の祝詞も吹かる禊川
形代の重なり合うて流れ行く
形代や目を閉ぢて聴く川の音
形代の流れて行くも雨の中

《努力賞》光 陰    山 田 和 男

懐胎の妻置き赴任春寒し
芥子菜の匂ひやここは異国の地
春興や人種の坩堝たる職場
異国の地馴染めば来たる花粉症
週末はゴルフ三昧夏一人
若人に中年混じる夜学かな
七色の沼からリフト青嵐
峰雲や道を横切るバッファロー
間歇泉高く激しく日の盛る
大南風渓流内の露天風呂
死の谷の膚を突刺す暑さかな
ヘッドライト霧に呑まれるデスバレー
塩湖凍つ轍真直ぐカーレース
バブル崩壊拠点無くなる寒さかな
冴返る帰国の前の大地震

《努力賞》割 烹 着    高 山 と 志

慰霊碑の掃除エプロンがけで春
エプロンのポッケ土筆でふっくらと
杉花粉マスクじゃ足らずエプロンまで
走り梅雨脱ぎっ放しのかっぽう着
紫蘇絞るエプロンまでも染まりけり
おみがきに汚るエプロン盆用意
光りおる鯛の鱗がエプロンに
エプロンに抱え秋茄子もらい来る
報恩講際立つ白のかっぽう着
除夜の鐘やっと外せるかっぽう着
新年や白きレースのかっぽう着
お年玉そっと忍ばす割烹着
お正月やっぱり馴染むかっぽう着
節分や福を集めるかっぽう着
三月や祝膳作りかっぽう着