新 刊 田 口 茉 於
句集 付 箋
帯文 加 古 宗 也
栞 石田郷子
自選十句
みどりごの欠伸のひとつづつに蝶
子を立たす眩しき場所や冬の森
夜の蝉と淋しいと言ひ泣きし子と
秋の日と思ふトンネル抜けるたび
たんぽぽを踏まぬやう母と離れぬやう
どの窓も寝息正しき星祭
しんと夜長饅頭は鞄の底
西瓜切り分ける大人になってゐる
稜線にしまはれてゆく御元日
日の当たるところ菜の花匂ひけり
ふ ら ん す 堂
自選十句
みどりごの欠伸のひとつづつに蝶
子を立たす眩しき場所や冬の森
夜の蝉と淋しいと言ひ泣きし子と
秋の日と思ふトンネル抜けるたび
たんぽぽを踏まぬやう母と離れぬやう
どの窓も寝息正しき星祭
しんと夜長饅頭は鞄の底
西瓜切り分ける大人になってゐる
稜線にしまはれてゆく御元日
日の当たるところ菜の花匂ひけり
ふ ら ん す 堂
▽日 時 令和四年九月十一日(日)十二時より受付
▽会 場 西尾市文化会館(西尾市山下町)
0563ー54ー5855
▽投句締切 十二時三十分(当季雑詠二句)
※参加者は天賞一点ご持参ください。
▽講 話 午後一時より
加古宗也「先師を語る」
▽句 会 午後二時より
▽会 費 千五百円(お茶一本を用意します)
※昼食は済ませてご参加ください。
文化会館内に喫茶ジャックスがあります。
▽申し込み 荻野杏子同人宛
〒444─0874
岡崎市竜美南三丁目六─七
各自のはがきにてお申し込みください。
会場近くの三師ゆかりの地
①聖運寺(うしほ・潮児菩提寺)
②西尾市立図書館(うしほ句碑)
③西尾歴史公園(潮児・宗也句碑)
主催 若 竹 吟 社
鮎焼いて夫たる事の寧かりし
鱧食べて五十路女の姦しき
茶畑をめぐる柩に茶師の父
木守柿母口遊む「七つの子」
熱燗や夫に薩摩隼人の血
本 阿 弥 書 店
題字 加 古 宗 也
序句 加 古 宗 也
撮影 岡 田 和 男
いつの間に孫が隣に初諷経
ふんはりと鴉の着地して春田
蛇のこと妻には言わず急ぎ足
東京へ皆帰りけり法師蟬
職退きてよりの村役神迎へ
私家版
ノリタケの森に初秋の息を吸ふ
歩を向ける社殿色無き風のなか
鶺鴒打つ煉瓦畳のアプローチ
ゆく夏の人肌色の素焼皿
絵付け愉しむ母子涼しき色かさね
きちこうを挿し物音をたてぬ部屋
清秋の湖の色置く絵の具皿
絵付師に一心といふさやけさよ
きはやかに描かれし薔薇秋気澄む
ギャラリーの皿の千枚秋の声
※
ビスクドールの瞠りてしづか秋の昼
爽涼やボーンチャイナの対の皿
飾り壺に秋思の王妃吹かれ立ち
秋興やオールドノリタケとはゆたか
初秋風ひとり遊びに足るひと日
※ビスクドール=陶製アンティーク人形
しぐるるや街道沿ひの仕出し店
雪催ひ宴会客のどやどやと
雪しまく旧国道をチェーンの音
せり帽の引つかけてあり寒の土間
底冷の這ひ上がり来し腰辺り
寒き夜は祖父の添ひ寝と子守唄
魔法めく一夜のうちの雪化粧
冴返るぽつりと夜半の豆電球
膏薬の匂ひ立つ肩春炬燵
ロゴ入りのビールグラスや昭和の日
くちびるを真つ青にして夏の川
肌脱の祖父の大きな手術痕
聞き入るは妖狐の民話夕すすき
門前の落葉踏みしめ一周忌
岳の雪仰ぐ祖父母の眠る町
水巡る色なき風の檜枝岐
小鳥来る歌舞伎舞台の土埃
石積みの客席高く鵙日和
※
秋冷や「橋場ばんば」の裁ち鋏
六地蔵幼な顔して彼岸花
色変へぬ松や集落氏三つ
曲家の馬槽に盛る吾亦紅
窓鋸に刻む屋号や木の実落つ
手入れよきマタギの銃に秋の蠅
秋湿り熊の毛皮に座す心地
秋日差す土間の木杓子よき色に
蕎麦刈の問へど返るは鎌の音
山人(やもうど)の日がな鍬うつ冬用意
水車小屋秋惜しむかに杵の音
猿鳴くや廃坑跡に望の月
※橋場ばんば=婆の姿をした縁切、縁結びの石像
スーツケース引く石の道涅槃西風
老犬はいつも傍ら球根植う
麦の秋風追ふ白きスクーター
父の日や押し入れからクラリネット
少年の泣きじゃくる夜冷し瓜
海亀やメラネシアの海の清ら
黙り込む線香花火の小さき玉
ゆく夏をパノラマカーの警笛よ
抽斗にビスコの小箱つくつくし
なんきんの焼菓子碧き瞳の婦人
星月夜作りかけたるベビー服
疵林檎煮るありたけの瓶を煮る
寒の水音目印の道祖神
大型のバイク相乗る冬入日
旅立ちの朝紺碧のはないちげ
緑陰や河馬舎ベンチに好きな席
朝涼の澄みたる水に沈む影
風薫る河馬の名を呼ぶ飼育員
波立ててプール底より河馬の浮く
ごつそりと水ごとプール出でし河馬
雲の峰ゆらりゆらりと歩く河馬
餌はキャベツ動かぬ河馬が動く時
河馬を見るガラスに映る白きシャツ
もう一人河馬を見る人夏帽子
秋近し河馬の横顔愁ひあり
遠雷や河馬舎に手書き河馬系図
大吉(四十四歳)亡くなる。二句。
三月に眠りましたと飼育員
春キャベツあふるる河馬の献花台
翌年。出目𠮷(四歳)婿入り
夏の朝壁一面に河馬の糞
翌々年。
雌(めす)河馬に雄(お す)の歯の跡水温む
教場の跡や山藤なだれたる
おぼろ夜のとぎ汁土へしみゆけり
診療所の医師は青年田水張る
新郷土館ととのひて若葉冷
※
虎耳草旅寝語りの碑を囲む
ごめんなすつて艶々の茄子の太刀
近所の子来て乗りたがるハンモック
山の日や役場へ返す薪割機
糸のまま蜘蛛を出しやる盆の家
招かるるビニルハウスの葡萄棚
獣の腑抜けて乾きし葡萄の種
鹿垣は知多の漁網よ山の畑
斧壁にありてストーブ熾を抱く
華やぎは薪ストーブを囲みゐて
山の竹伐り出す夫の年用意
※碑= 「海にゐて深山恋しといふ人に告げばや津具の旅寝語りを」柳田國男の歌碑
序 加古宗也
跋 田口風子
うっかりすると見落としてしまいそうな「染め」の勘どころをぴたりと押さえた句だ。教員・主婦・福祉の人、そして、染色家。さらに俳人とめまぐるしい日常を過ごしながら、社会問題にも関心を怠らない人、それが英子さんなのだ。
加古宗也(「序」より)
緋の色を根より授かり染始
黒南風や天気図を貼る染工房
染師には勘といふ技片時雨
てふてふの触るるを恐れ伸子張
きはちすや機音残る丹後径
冷まじやインカ帝国文字もたず
マチュピチュの巌頭に座し霧まみれ
ひめゆりの塔に菊抱く夫を見し
母の座にもどる教師や大根提げ
夜濯ぎや子のポケットに石一つ
加古宗也抄出