若竹ウェブ句会2020

第1回(2020年7月)~第6回(2020年12月)


第6回若竹ウェブ句会(2020年12月募集)

〈メッセージ紹介〉 
投句について寄せられた声を紹介します。

  • 義士の日や鳥居利右衛門吉良の義士

「長篠の戦いで磔にされた鳥居強右衛門は、吉良の義士なのでしょうか」というご質問を頂きましたが、これは、「利」と「強」の取違いとすぐ判明しました。が、この利右衛門について、作者の彰さんより詳細なメールを頂きました。

鳥居利右衛門については「上野介の忠臣蔵」(清水義範著文芸春秋社刊)に拠ります。この本は主に清水一学(宮迫村の百姓)について書かれたもので、鳥居利右衛門は岡山村の士分のものの息子とあります。この小説によれば二人は華蔵寺の和尚に見こまれて同時期に吉良家江戸屋敷に出仕したようで歳の差は利右衛門が4歳くらい上とありますが、利右衛門が討入りでなくなった時、役職「用人」で熟年期だったようです。また「利」と「理」が混在していますが一般的に後者で、正しくは前者のようです。

ということでした。作者は、吉良びいきということではないそうですが、鳥居理右衛門につながる家系だと信じる人と偶然知り合いになったことから作句に至ったとのことでした。

  • 気象士の棒の振幅寒波くる

「下五「寒波来る」→「寒波急」とした方が、臨場感や気象士の動きなど、読み手は想像しやすいのではないだろか。」というご意見が届きました。確かに「急」の漢字が句末にくることで生まれる緊張感も効果のひとつです。

この声に対して、「くる」としたのは「下五については漢字が続き、印象が固くなるのを避けたい」ということでした。作者なりの意図があり、選ばれた表現だったようです。ご意見をお寄せ頂き、ありがとうございました。

  • 悴む手悴む心によりそいて

解釈の仕方について「傷つき悴む心に寄り添う句、それとも実際に悴む子の手を擦り暖めている句なのだろうか」という声がありました。季語「悴む」は「寒さのために身も心もすべてのものが縮こまった状態」どちらにも解釈は可能でしょう。読み手によって、ひろがる幅をもった句なのでしょう。


(三句投句、五句選。内、一句特選でコメント記載@はすーちゃんのコメント)

〈得点結果〉特選1点入選1点で集計。

6点 気象士の棒の振幅寒波くる          涼
@気象予報士の持つ指示棒の動きと、波のように周期的に押し寄せる寒気団の動き。気圧配置図を指す棒のふり幅の視覚的な動きから、急激に襲う感覚的な寒さに連想が及ぶ。

5点 「またね」から続く話や藪柑子      けい香
(彰特選)電話でしょうか、顔を合わせてでしょうか。話が続けたくなる人と居ることは幸せですね。

5点 もしや母有袋類か日向ぼこ       オリーブ
(けい香特選)何度読んでもクスリと笑ってしまいました。アニメの世界のようで母君が有袋類に変化していく様子が見えるようです。日向ぼこで現実に戻れて良かったです!?
(はーちゃん特選)有袋類と発想されたのが楽しく笑ってしまいました。眼差しに暖かさを感じます。

4点 はらわたはこのような色鵙の贄     ビビサン
(晶子特選)観察力が鋭く、危うげなことを微妙に巧みに表現している。

4点 毛糸編む過ぎ去りし日々埋めるごと    か な
@毛糸を編みながら、蘇る遠い日々の記憶。編み棒(針)を動かす手から毛糸が形となっていくように、また思い出も暖かく作者の胸に紡がれていく。

3点 初鏡わたしのためのハイヒール     オリーブ
(ビビサン特選)自分をしっかりと持った女性の句だと思いました。自分の足に合った靴にはなかなか巡り合えないもの。このハイヒールはオーダーメイドかも。初鏡との取り合わせも効果を最大限に引き出しているように思えます。

3点 銀色の冬芽健やか通学路          晶子
(帰心特選)健やかに冬芽の育つ通学路には、同じように健やかに育つ児童たちが歩いていくのでしょう。希望溢れる一コマ。

3点 雑踏のマスクにマスク紛れ込む     ビビサン
@顔の下半分を隠すマスクは表情が見えにくく、感情がわかりにくいもの。マの韻が効果的に配置され、句の背後にマスクがもつ仮面の意味も感じられる。

3点 寒木瓜の朱さに負けぬ恋心        けい香
@花の少ない冬に、ひときわ目につく寒木瓜の花。白や絞りなど鮮やかな色が多いが、恋心の強さを表すのはやはり赤をもってして。冷たい風にも負けない恋心。

2点 短日や農夫スコップを畑に立て      泥 舟    
(涼特選)ミレーの風景画を想起致しました。とても素敵な句ですね。
(康子特選)もう少し畑仕事がしたいのに、もう日暮れ。農夫の嘆きとため息が聞こえてきそうです。

2点 悴む手悴む心によりそいて        けい香
(ひさこ特選)「悴む手」「悴む心」のリフレインの効果はいいと思う。全体的にリズミカルで寒い季節に合っていると思いました。

2点 夫好む煮くずれ大根ポンと出す      ひさこ
(容子特選)言葉は少なくとも「ポンと出す」ところに愛情と、長い年月を経た夫婦の関係性が見えて面白い。「煮崩れ大根」は私も好き。

2点 冬の空同調圧力てふ重み         帰 心
(オリーブ特選)日常生活で感じる様々な同調圧力に、寒々しく乾燥した冬の空が相俟って、共感を覚えます。

2点 湯タンポを陣取る猫の重重し     はーちゃん
(こう子特選)猫のふてぶてしい様子がよく詠まれていると思います。年をとった丸々と太った何にも動じない猫が見えてきます。

2点 寒暁を車内明るきバス走る        康 子

2点 石蕗咲や遺書を書いたと母の言ふ     容 子

2点 山茶花の散り乱れては地の色へ      康 子

2点 ひとりゐの身に入むハービーハンコック  帰 心

2点 しつけ切る形見のはさみ七五三      こう子

2点 稲妻やちゃんと口論させて欲し      帰 心

1点 小春日や試しバリカンまず父で      容 子
(みな子特選)暖かい冬の日に、バリカンを使い始めるのに、まず父の頭を使って試すというのどかな情景が浮かぶ。

1点 木の葉散る少し遅めの朝ごはん      こう子

1点 十一月尽満月大きくほんのりと      みな子

1点 箸持つも億劫となり冬籠        オリーブ

1点 鳴り止まぬサイレンは何処霜の朝     容 子

1点 また一人帰らぬ旅へ冬初め        康 子

1点 晩節てふ言葉の重み牡丹焚き       か な

1点 クリスマスはやぶさ2(ツー)の玉手箱  ひさこ

1点 わんぱくは落ち葉蹴散らし反抗す    ビビサン

1点 婆ひとり日めくりめくる冬座敷      ひさこ

 



第5回若竹ウェブ句会(2020年11月募集)

先月(十月)の〈別れなのさっと一刷毛秋の色〉涼さんの俳句の解釈について、さまざまな声をいただきました。

  1. 「別れなの」は「分れなんです」という女性が自分自身に言い聞かせている感じ、その気持ち。上五、中七、下五がそれぞれ独立したような三段切れになっている。
  2. 「別れなの」は第三者が「もう別れた方がいいよ」という意味の「別れな」に「の」がついている。
  3. 「別れしな」の意味の「し」が省略された形で、別れ際という意味。
  4. 「別れなのさ」で切れて、その気持ちの流れで「一刷毛(ひとはけ)」につながる。

といろいろなご意見があり、涼さんに確認したところ、作者の意図としては、1の意味で作句されたそうです。「秋の色」は秋景色、秋の風光を賞美する意で使われている季語。中七の「さっと一刷毛」は、実は掛け軸の滝の勢いからイメージされたそうです。皆さん、ご意見ありがとうございました。


今回(十一月)の選句も互選で行いました。
(三句投句、五句選。内、一句特選でコメント記載)
得点結果 特選1点入選1点で集計。
@は、すーちゃんのコメント。

9点 冬ざれや心に抜けぬ刃あり        けい香
(こう子特選)この刃をぬいたら最後…ということ人生の中にはままあると思います。そしてそれは抜かれぬまま心の奥にしまわれる。端的に心の内の一塊を詠まれた句だと思いました。また、この刃は刺さったままの抜くことの出来ない刃なのかと鑑賞いたしました。どちらにもとれますかね。

7点 蜜柑むく幼の爪の薄きこと        けい香
(涼特選)優しく鋭い観察眼になによりも惹かれました

6点 包丁のすぱりと切れる初冬かな        涼
(みな子特選)すぱりとという切れ味の良さが 初冬の緊張感とあっていると、思います。
(桜子特選)すぱりが効いていると思います。

6点 なにもかも無きことにせし焚火かな    ぶっち
(彰特選)日記や手紙を燃しているのか、炎に新たな決意を確かめているのか。

4点 神無月あさぎまだらを追う旅路    はーちゃん
(容子特選)時には海を越えて長旅をする「あさぎまだら」。見つけたらとてもラッキーで、その群れを追いかけたい気持ちも分かる。もしかしたら神様もあさぎまだらを追って出雲まで旅したのだろうか?季語「神無月」が、あさぎまだらをより神秘的にしている。
(オリーブ特選)ミステリアスで詩的な雰囲気が季語と響きあっていて美しいと思います。

3点 子を打ちし我の記憶に雪しまく      こう子
(はーちゃん特選)句で表現できる事が、沢山ある事を知りました。若かった頃を思い、胸に響きます。

3点 紋付で形(なり)は着流し尉鶲(じょうびたき)  彰
(ひさこ特選)「紋付で」からは、古風な着物を。「形は着流し」は、若侍かと想像してたら、「ジョウビタキ」という鳥だという事が分かりました。とても面白いと思いました。

3点 女子駅伝胸元薄し秋澄めり        晶 子
(ぶっち特選)スポーツの秋、さわやかな様子が目に浮かびます。

3点 寒いねとスマートフォンに囁けり       涼
@俵万智の〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉は今から三十年以上前の歌。今やスマートフォンに話しかければ「寒いですね。私もカバーを重ね着したいです。」なぞと答えてくれる時代。今を映す現代の一句。

3点 ひよが実をこぼして殖える小さき庭    けい香
@〈鵯のこぼし去りぬる実のあかき 蕪村〉〈鵯は実を人は煙草をこぼし去る 岩岡中正〉は、ひよどりが実をこぼした場面を詠んだ句。掲句はそのこぼした実から、さらに時間的経過を含んだ意味内容。うるさいほどの鵯の鳴き声と、「こぼして殖える」のにぎやかさとの重なりも背後に感じられる。

2点 秋蝶や石段駆ける若き足         康 子
(晶子特選)石段を舞台に下り行くものと上がり行く者を上手く表現している。

2点 あやすのは夜なきする猫虎落笛     オリーブ
@虎落笛は、冬の烈風が柵などに吹きつけてヒューヒューと発する笛のような音をいう。猫も人も同じ。この猫はまだ幼く、母を恋うているのだろう。母のいない子猫に寄り添う作者。冬の夜の厳しい風の音にいっそう切なさが募る。

2点 水散らし羽音の重き冬雀         康 子
@冬の明るい陽ざしの中、水浴びをしているのか、水飛沫は光に輝くも、その羽音に重さを感じた作者。繊細な感覚でとらえた一句。

2点 健診に抱く子の重み涼新た      はーちゃん
@いつも抱いている子の重みを明確な数字で確認する健診。子の成長を再確認し、実感するとともに、秋になって新たに感じる、しみじみとした涼しさ。

2点 俯いた誰そ彼時の冬帽子        オリーブ
@夕方の、人の顔を見分けがたくなってきた頃、下を向いた人影に冬帽子の輪郭が、はっきりと目に映ったのだろう。寒さを防ぐ冬帽子のシルエットが夕闇に浮かんでいる。

2点 じたばたと医者に行く道秋桜       容 子
@医者へ行く必要をみとめながら、避けていたという状況だったのだろうか。「じたばた」から、抵抗むなしく、医者へ行くことにし、あわてながら道を急ぐ、そんな様子が浮かぶ。秋桜も風にやや乱れ咲いているのだろう。

2点 暫くは風音しきり冬庵            涼
@風音に耳を傾けているしばらくの間、そして、今は静かな時が流れる冬の庵。風音を言いながら、静かさを詠んだ一作。

1点 我が庭のひととき萩の黄葉して      みな子
(康子特選)柔らかな秋の日差しの中に、萩の葉が黄色く映えて揺れる。まるでスポットライトが当たっているよう。心安らぐ素敵な一句です。

1点 家史に足す何事も無く冬初め         彰
(けい香特選)何事もないのが平穏というもの、作者さんもその幸福に満足していると思います。冬初めの季語に人生も感じられて、私も斯くありたいと思いました。

1点 秋日和ホームの庭に肉の香よ     はーちゃん
(帰心特選)コロナ禍で、ホームに入所している方々は家族の面会ができない。そうした方々にせめてバーベキューで楽しんでいただこうと、スタッフの方が肉を焼いている。洗濯物を届けに来た家族の方に、その肉の焼ける香りは届く。その香りを嗅ぎながら、入所しているおじいちゃんの笑顔を思い浮かべている―そんな光景が目に浮かんできました。

1点 端布(はぎれ)だけマスク手作り母に似て ひさこ
(すいは特選)受け継ぐという温かさを感じました。

1点 枯れ色の蟷螂に寄る兄弟         香 苗

1点 ワイファイの迅さ心に秋のこゑ      帰 心

1点 秋の宵娘はウクレレを聞かせけり     帰 心

1点 仙台のトンネル抜けて薄道        みな子

1点 ブルームーン月には魔女の影のあり    晶 子

1点 寝酒から誘われ烏賊焼く午前2時    オリーブ

1点 便利さの存在遠し秋の暮         康 子

1点 藤落ち葉混じり園児の砂あそび      こう子

1点 はさみ研ぐ術後の庭師鳥渡る       ひさこ

1点 冬日浴ぶジーパンの裾あげ水辺      香 苗

 



第4回若竹ウェブ句会(2020年10月募集)

オリーブさんより、下記のようなメッセージを頂きました。
★メッセージ紹介
互選の試みは、他の参加者の意見を知ることができて面白かったです。質問ですが、投句する句は時節にあった季語を用いたものに限定すべきでしょうか。
☆ご質問に対して
できるだけその季節に合った季語の方が良いと思います。当季雑詠(その季節の事物、事象について自由に詠む)が基本ですが、唯、季節の移ろいにより、季語も前後して、またがる時節はありますね。


今回(10月)の選句も互選で行いました。
(三句投句、五句選。内、一句特選でコメント記載)
得点結果 特選1点入選1点で集計。@は、すーのコメント。
(配点について、一般的に特選も入選も1点というご意見を頂き、今回はそのように集計しました。また、何かご意見がありましたら、声をお寄せください。)

7点 夜干し衣や月の光を吸ふて白      こう子
(涼特選)「月」が三秋に渉る季語であることを知りました。
「吸ふて白」が絶妙ですね。

5点 紐解くは最期の言葉秋惜しむ      オリーブ
(はーちゃん特選)意味を調べている内に思い出す人がいました。秋惜しむが紐解く、最後の言葉にかかっていいなと思いました。

5点 夜なべして見つめる無数の謀      オリーブ
@如何なる状況か。書類の束を前に、或いは古文書解読か。深謀遠慮のたくらみ事に作者の夜なべ仕事は長くなりそうだ。

5点 掌の骨壺小さし秋あかね        桜 子
@掌に乗せられるほどの小ささが、命のはかなさのようで、哀切さが滲む。秋あかねの小さくも素朴なイメージと共鳴。

4点 天高し棒をくわえて戻る犬       由美子
(こう子特選)秋の高い空から、走り回り作者の元へ戻ってくる犬へ照準を合わせ、次にその口に銜えた棒にズームされていく動きが、とても面白いと思いました。

3点 雀にも剛の者あり秋の朝        康 子
(オリーブ特選)人間から見るとか弱く小さい雀でも、雀社会の中では強者弱者があり、どんな生き物にも生き抜く逞しさがあることを感じられました。

3点 味噌汁の香り深まり秋黴入       こう子
(すいは特選)さりげない日常にみる季節の移ろい。思わず鼻呼吸。
@秋黴入は、あきついりと読む「秋黴雨」だろうか。

3点 魔女帽子こわごわ載せるハロウィン   由美子
@明るい楽しさの裏にある魔女への恐れをユーモラスに詠む。

3点 老蝶の茶色き翅に光受け        桜 子
@冬へと向かう秋蝶の行く末と、光を受けている命の輝き。

2点 自転車の母待つ姉妹夕月夜       こう子
(けい香特選)月の出る頃まで母を待つ幼き姉妹がいとおしく、秋の哀愁も感じられて好きな句です。
(桜子特選)情感も情景描写も素敵です!

2点 別れなのさっと一刷毛秋の色      涼
(彰特選)潔くて爽やかで、とても気に入りました。「一刷毛」は「一刷き」かとも。でも、これがいいのだと思います。

2点 半袖に木犀の香の痛みかな       彰
@半袖の身に木犀の芳香を「痛み」ととらえる独自の感性。

2点 秋涼や忘れたことは書いてあり     涼
@失念を補ってくれたのは自らの手控えか、秋涼の心地よさ。

2点 敬老日されどエプロン店支度      すいは
@敬老日とはいえ、身ごしらえして店を切り盛りする活力。

2点 高齢の集ひて唱歌乱れ萩        康 子
@高齢者の歌う様子を巧みにとらえた。季語の斡旋が見事。

1点 天高く父を超えたる靴サイズ      はーちゃん
(由美子特選)子どもは、親を追い越していく。成長と親の願いとが絡み合っている。天高くの季語を上手く生かした句になっている。

1点 穴惑ひズームの操作手こずれり     帰 心
(晶子特選)スマートホンに苦戦している様と季語が上手く合わされている。

1点 園庭や缶ぽっくりの運動会       康 子
(帰心特選)園児の運動会、本当にかわいいですよね。「ぽっくり」という語の、のどかな響きが「園庭」とマッチしていて、ほのぼのとした気持ちで、わが子を眺めている親御さんの眼差しまでも浮かんできます。

1点 尾花道ふと口ずさむ童唄        けい香
(康子特選)ススキが生い茂る細道をずっと歩くと、いつの
間にか♪この道はいつか来た道♪なんて口ずさんでいたり
して…。

1点 追われても何も終わらず休暇明け    オリーブ
@夏期休暇中にも仕事をしていたのか、山積の課題に徒労感。

1点 プロペラの音懐かしき秋の蒼      涼
@かつての記憶を思い出させるプロペラの音。「蒼」は秋空の蒼か。

1点 木の実降るトトロの森を夢に見し    けい香
@トトロの木の実は一夜で巨木になって…不思議の森の物語。

1点 秋夕焼五時のチャイムで帰る子ら    けい香
@黄昏時の子らの上に広がる、短くも美しい秋の夕焼け空。

1点 娘の作る月見団子に抹茶味       帰 心
@お茶処、西尾ならではの月見団子、団らんのひととき。

1点 別子山岩肌撫でるコカマキリ      すいは
@固い岩肌を撫でるような子かまきりの、いたいけな様子。

★すいはさんよりのメッセージ
別子山は新居浜市にある住友銅山の跡で、かつては大変多くの労働者が行き交いました。
@メッセージ有難うございました。愛媛県宇摩郡の別子山村は、今はもう新居浜市に合併されているのですね。
☆お詫び
今回、すいはさんの句「別子山」を「別所山」と間違えていました。大変失礼いたしました。送られてきた俳句は、コピー&ペーストして一覧表にするのが基本ですが、本句は打鍵し、誤ったまま送信してしまいました。心よりお詫びいたします。申し訳ありませんでした。以後気をつけたいと思います。また、皆さんにお願いですが、今後誤りに気づかれたときには、教えて頂けると助かります。



第三回若竹ウェブ句会(2020年9月募集)

今回(九月)の選句は互選で行いました。
(三句投句、三句選。内、一句特選でコメントはあってもなくても自由)

得点結果 今回は特選2点入選1点で集計しました。は、すーちゃんのコメント

8点 単線の車輌傾き曼珠沙華       こう子

(康子特選)列車がカーブに差し掛かり車窓から、線路沿いに咲く真っ赤な曼珠沙華が、目に浮かびます。
(みな子特選)単線の電車がカーブに差し掛かり、傾いて通っていく、そこに曼珠沙華が咲いている情景が見えてくる。
(晶子特選)(由美子特選)

4点 街灯りずっと離れて月明かり      由美子

(ぶっち特選)地上と天空、人工と自然、二つの対比した世界。お互いに自らの持ち場で、各々明るい光を放っている。

3点 蜉蝣や彼方見通すみどりの瞳             オリーブ

(桜子特選)短い命の蜉蝣のはかなさと、遠くを見つめている「みどりの瞳」の透明感、そのひとすじの眼差し。

3点 脳膜に焼き付く景や夜光虫       こう子

(ゆり特選)「脳膜に」の詠い出しの強さから伝わる刺激的な光景。命の不思議、光の幻想性。この大いなる自然。

 3点 ロッカーを開けてちりんと墓参り   桜 子

(こう子特選最後まで読んで驚く、種明かしのような構成である。今どきの墓参りの様子を効果的に伝える一句だ。

 3点 下校児の道草誘う犬子草          こう子

(彰特選)人に犬派、猫派があるように、同じ草を犬子草とも、猫じゃらしとも呼ぶ。共に遊んでほしいかのように揺れる狗尾草。

3点 父とこの同じ眼差しかぶと虫     晶 子

「こ」は「子」か。かぶと虫の魅力に父子ともに虜となっている。強い角、輝かしいボディ、逞しくも美しい虫なのだ。

2点 在りし父白シャツに替え押印す     ゆ り

(帰心特選)お父様の生真面目さ、誠実さが伝わってきます。

2点 昼も夜もおやつにも食ぶちらし鮓    ゆ り

(オリーブ特選)晴れの日限定の特別な食べ物のはずが、まさかおやつにまで⁈という驚きで笑ってしまいました。大好物なのか、食べ切れない程の量だったのか、大人数で食べる予定が変更になってしまったのか、色々と想像が広がります。

2点 猫の手を借りて夫に触れる秋     オリーブ

猫の手が単にかわいいだけでなく、切なさも秘める。

2点 秋の雨ぱっと開かぬ手の痛み     康 子

秋雨の冷えた空気感を最初に感じる手指。実感の一句。

 2点 オーボエは誰に聴かすや夏木立    由美子

柔らかな音色が青々とした木立を渡っていく心地よさ。

2点 産み月の白ワンピース風揺るる    ゆ り

季語は白ワンピース。命を宿した臨月の身に白さが際立つ。

1点 稲妻の妻になりたる稲穂美し      

稲は雷の発光と交わって実を孕むという言い伝えの一句。

 1点 朝な朝なひいふうみいと牽牛花    康 子

朝ごとに咲く朝顔を一つ一つ数えあげる、やわらかな響き。

 1点 稲妻に泣いて負われて宮の森      

幼少の頃の記憶か、童謡の聞こえてくるような郷愁が漂う。

 1点 青瓢ぼんきゅっぼんとぶら下がり   桜 子

リズムのよい中七の擬態語が瓢箪の見事さを表し、愉快。

 1点 二学期の正門検温の関所       帰 心

二学期が季語。コロナ禍の教育現場の朝の景を言い得て妙。
〈帰心さまよりのメッセージ〉
私の勤務校では、コロナ禍の中、対面授業が解禁となったのは、8月末でした。正門を入る学生たちは、立哨の先生によって検温を受けたのち、教室に入ります。先日は、雨の中傘を差しながら同僚が立哨をしていました。心の中で手を合わせました。



第二回若竹ウェブ句会(2020年8月募集)

特選句

放物線の生き物めいてその噴水      みな子

自由に形を変えることができる水に、命があるかのような動き、姿を見たのでしょう。空中へ噴出された水が、下の水面に着くまでの限られたわずかな時間。噴水にある美しさや涼しさをこえた「生き物めいて」の措辞が秀逸です。「その噴水」と取り立てて指し示す感じに、驚きと若干のおそれのようなものも感じます。命の無いものに命の動き、輝きを見てとった佳句です。

◇  ◇ ◇

初盆で悲しみ新た無二の友        尚 枝

今年は大切な友の初盆。不在を再確認させられる悲しみ。かけがえのない友への追悼の一句です。そのつらさはあるものの、その友との思い出は作者の胸に確とあるのでしょう。「で」は「なので」という因果を思わせるので、「の」や「に」などの違う助詞を考えてみるのもよいかもしれませんね。

蜂の巣を知らぬ仏の立ち話        尚 枝

恐ろしい蜂の巣に気づかずに立ち話をしているのは、人とも、人のような仏像とも。慣用句「知らぬが仏」は、「当人だけが知らずに平気でいるさまをあわれみ、あざけっていう語」と広辞苑にありますが、きっとそんな意味合いでつかわれたのではないでしょう。作者ご自身のかつての一場面なのかもしれません。蜂の巣があると気づかないうちは仏のように?穏やかに立ち話をしていたのに、近くにあるとわかった途端、あわてふためいているのかもしれません。また、本当の仏像ととれば、蜂の巣など知らぬ存ぜぬの立ち話。立ち話をしているように並ばれた仏さまの力には、蜂も太刀打ちできないのかもしれませんね。

草刈りで見つけし百合の咲くを待つ    尚 枝

草刈りをしていたら百合を発見。見つけた百合の開花を待つ気持ちが一句に込められています。大きさや色合いなどどんな様子の百合だったのか、知りたくなりました。

血縁の見知らぬ人と水喧嘩       オリーブ

水利をめぐっての諍いが今もまだ続いているのです。「水喧嘩」は、耕作放棄地が増えている昨今の現状から、あまり使われなくなった季語のように思っていました。権利を主張し合うのも、それが血縁関係となれば、更にややこしくなってしまうのでしょう。農耕民族といわれる日本人の、今に続く水喧嘩の一句。

濁水のうわべを浚う会話かな      オリーブ

「溝浚え」の季語を元に作句されたのか、それとも無季の句でしょうか。いずれにしろ、実質の伴わない会話、不毛なやりとりの場面のようです。本音と建前の社会の一端を見る思いがします。

地につかぬ赤子の裸足突いてみる    オリーブ

突いてみたのは裸足の足のどの部分でしょうか?「地につかぬ」から、まだ歩いたことのない赤子の足の裏でしょうか?遊び心なのか、そこには裸足である無防備の怖さも感じます。

七月の豹紋蝶に出会う道         みな子

七月のある日、道端に出会った豹柄のような蝶。豹紋蝶の出現で歩いているその道も、作者にとって印象に残る道になったでしょう。出会ったときの新鮮な驚きが伝わります。

飲んで食べ尿して糞(ふん)しはつあき来 みな子

まさにそのとおりです。循環器である生体は、それを繰り返し、また新しい秋がやってきました。

梅雨明けや朝日を浴びてシャンプーす   ぶっち

一読、長梅雨からやっと開放された気分の良さが伝わります。朝の爽快感と共に、朝日にシャンプーの水しぶきが光っています。「浴びて」が朝日にもシャンプーの飛沫にも。今年は特に長梅雨だったこともあり、梅雨明け実感の一句。

結社誌の曝書ベランダの壮観       帰 心

八音、九音の構成による句またがりの対句表現。曝書と壮観の漢語も一句の調べを引き締めています。ベランダも夏の季語ですが、ここでは、曝書が主の季語となるのでしょう。

蝉しぐれ体操の腕空に上ぐ        帰 心

懸命に鳴く蝉声の空へ腕を上げ、こちらも元気よく体操です。蝉しぐれの中へ近づくように腕を伸ばします。

日傘差す女子高生の景にも慣れ      帰 心

おしゃれに敏感な女子高生ですが、熱中症で死者が出る現代、日傘もおしゃれだけではなくなりました。コロナ禍の近頃は、ソーシャルディスタンスのために使われることもあるようです。


先月(七月)の〈念珠へと育て御寺(みてら)の青胡桃〉について作者の帰心さんよりメッセージを頂きました。
★メッセージの紹介
西尾市吉良町に蓮で有名な教蓮寺がある。この寺のご住職は植物の事がとてもお詳しいので、何度も足を運び、いろいろな話を聞かせていただいている。ひとつば、風蘭、菩提樹と見て回ったのち、青胡桃が目に留まった。「この胡桃から毎年念珠を作っています」というご住職のお話に、植物と宗教が一本につながった。たわわに実った胡桃を見て、すてきな念珠ができるのだろうと思った。(「育て」は、他動詞連用形の意味で詠みました)
とのことです。この「育て」のあとには、軽い切れがあって、「いつか念珠となるべく育てていて」のように受け取ることができますね。
丁寧なコメント、ありがとうございました。



第一回若竹ウェブ句会(2020年7月募集)

特選句三句

はつなつのアリウムの花くっきりと        みな子

「はつなつ」の清々しい響きが鮮明な花の姿を呼び起こしてくるようです。アリウムはネギ科、丸いボンボンのようなかわいい花。

 

シタールの音や菩提樹の花弁より          帰心

シタールは金属製の爪ではじいて鳴らす北インドの弦楽器。菩提樹は中国原産。五弁花で芳香をもちます。一句全体に異国の響きや情緒が漂います。

 

梅雨曇りどうにもならぬことがある       オリーブ

暗い梅雨どきの曇り空、加えてコロナの厄災、また人生の一つの局面に、こんなつぶやきが出たのでしょう。共感とともに季語のもつ鬱とした雰囲気、状況に即して詠まれた一句。

◇  ◇  ◇  ◇

切実にアイスクリームねだる猫         オリーブ

猫もアイスクリームの美味しさに目覚めてしまったのでしょうか。猫もほしがるアイスの魅力。切実にねだる様子を映像化してみると、詠み手に伝わりやすくなります。

 

若竹のような四つ足駆け回る          オリーブ

上へと伸びる竹の垂直方向に対して水平方向の元気な動き。若竹は季語なので比喩としてではなく、若竹の青々とした元気の良さ、清新さを主眼とした作句に挑戦してみては。

 

半夏雨半月ぶりに猫撫でる            ぶっち

半夏雨(はんげあめ)は時候の季語「半夏生」の七月二日頃に降る雨。物忌みや、この日に降ると大雨が続くとの謂れなど含みをもった季語。中七から伝わる猫との微妙な距離感。

 

夕立の西日が照らす水溜まり      はらぺこあおむし

夕立から西日が差すまでの長い時間枠を俳句に詠むのは、なかなか難しい。夕立も西日も夏の季語なので、主従をはっきりさせるとより良くなりそう。水溜まりへの着眼点はグッド。

 

紫の薔薇の二輪を卓上に             みな子

「薔薇の二輪を」と「二輪の薔薇を」との差異。作者は前者を選択。紫の薔薇の色が鮮明です。どちらが良いというのではなく、繰り返し読んでしっくりくる、気に入るという、自分なりの言葉に対する感覚を確認してみるのもよいかも。

 

アカシアの花のちらほら小公園          みな子

のんびりと散策でもしているような中七。アカシアはハリエンジュともいわれ、白い蝶の集まりのような花房です。花の咲き加減と小さめの公園。辺りには芳しい香りも漂って。

 

念珠へと育て御寺の青胡桃             帰心

「育て」の受け止め方。人によって、育っていけと受け取る場合と、現在育てていてと受け取る場合と。自動詞「育つ」の命令形か、他動詞「育てる」の連用形か。読み手によって様々な解釈を呼ぶ句です。青胡桃の中に秘められた核に思いを託しているのでしょうか。

 

風を聴く心風蘭仰ぎ見る              帰心

風蘭は白い花だけでなく葉や根まで様々な楽しみ方ができ、乾燥にも強い蘭。「風を聴く心」は実は作者の父上との絆を表す特別な言葉。「仰ぎ見る」から風蘭の位置が上にあるだけでなく、そこに敬愛の感情も。粛然とした精神世界を感じます。

 

皆さま、ご投句ありがとうございました!

次回も是非お待ちしております。

(今回のウェブ句会選担当:すーちゃん)