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句集『茅花流し』刊行

加古宗也 第五句集「茅花流し」

 吟行の楽しさを教えてくれたのは、実は、富田うしほで、その師、村上鬼城も出不精と言いながらもたびたび吟行を楽しんでいたという。仲間とともに吟行をしているときこそ、私にとって至福の時間だと言っていい。

加古宗也

自選十句
師直も主税も土の雛かな
葦牙やガラ紡船の名残り杭
うぐひすや只管打座とは退屈な
茅花流しや富士川は富士の水
深吉野の星無き夜は蛍火を
けら鳴くや百雪隠に百の甕
泳ぐ子の真青なる淵めざしけり
蜩や樹間正しき吉野杉
鮎錆びて水に匂ひの生まれけり
斑鳩は秋こそ寧し夢違へ

 

句集「茅花流し」に寄せて

まさに自由自在。こんなにも俳句の世界は、広く深いものだった。句集『茅花流し』は、加古宗也氏の『雲雀野』に続く第五句集である。氏のもつ懐の深さそのままに、十七音の世界を縦横無尽に遊ぶ。
あとがきに「仲間とともに吟行をしているときこそ、私にとって至福の時間だと言っていい。」とあるように、句集を手にすれば、ひとときその「至福」を共有できる。

茅花流しや富士川は富士の水
瞽女の墓とや花あげて寒蕨
聖護院蕪ほどなく尼と会ふ
ささげ銃とは首伸ばす鵜小屋の鵜
蜩や樹間正しき吉野杉

郡上八幡では
泳ぐ子の真青なる淵めざしけり

隠岐では
飛魚飛んでをり水軍の海平ら

師の富田潮児、うしほ、その師の村上鬼城に関する句も多く収録されている。
水茎に漲る力常閑忌
鬼城忌の山河きちきちばつた飛ぶ
誰れ彼れをいつも案じて生身魂

また文化、芸術に対する深い造詣もさることながら、焼き物に因んだ句も多い。
花惜しむとは道年の楽の艶
窯元はいまも茅葺き柿若葉
ぐい呑みは瀬戸黒がいい蕗の味噌

さらにリズムの弾む軽妙な句も。
団扇絵は球子の富士やぱたぱたす
春隣メンズショップよりラップ
自転車に乗るコスモスの風に乗る

そして自らの立ち位置を明確にした日常の句もさらりと詠む。
けさ秋や宗全籠に庭の花
河豚食うてしばし吉良公談義かな
ふぐり落して何となく酒が欲し

俳句のおもしろさを堪能できる一冊である。