若竹ウェブ句会2022

第19回(2022年1月)~第30回(2022年12月)


第30回若竹ウェブ句会(2022年12月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

6点句 聞く耳と聞き流す耳日向ぼこ         荒 一葉
特選 聞く耳と聞き流す耳を上手に使い分けて老年まで連れ沿った老夫婦の秘訣を教えられているようです。(冬青)
特選 人の話をしっかり聞く事の出来る耳、又人の悪口や嫌な話を聞き流す耳を持ちたいと、常々思っています。そういう日向ぼこにしたいものですねぇ。マスクが早く外せる事を願いまして…。(佳楓)
入選 聞いているのかいないのか、眠っているのかいないのか、頷いているのは聞いて共感しているのか、それとも居眠りをしているこっくりか。俳味があって面白いなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 のんびり日向ぼっこをしながらも、聞くべきことは聞き、流すことは流し、頭はしっかり働いています。(康子)
入選 すーちゃん・こう子

5点句 二個入りのパックケーキの聖夜かな       こう子
入選 子育ても終わり、ご夫婦のクリスマス。(垣内孝雄)
入選 ささやかでも楽し気な聖夜が見えてくる(荒 一葉)
入選 質素に過ごす夫婦二人だけの聖夜、母と子の二人だけの聖夜、いろいろ想像しました。はなやかなクリスマスもいいですが、静かに過ごすクリスマスもいいですね。(蒼鳩 薫)
入選 帰心・ 彰

5点句 境内に落葉渦巻く一ところ            燕太
入選 風と建物の位置関係から落葉が渦巻くところがあるように思います。同時に、心にざわめく何かがあるようなそんな想像をしました。(蒼鳩 薫)
入選 落葉が渦巻いているところをしばらく見ていたい。(みな子)
入選 ビビサン・冬青・こう子

5点句 眠りつく十戸一村星冴ゆる          荒 一葉
特選 山里の小さな村はなにもかも共同体。生きていくための生活の知恵なのでしょう。静かに眠る村の夜空に星々が、明るく輝いて絵画のようです。(蒼鳩 薫)
特選 コメントなし(百代)
入選 昔話を思わせる小さな村に、冴え渡る満天の星、さぞかし美しいでしょうね。(康子)
入選 彰・ビビサン

4点句 真っ白なファックス届く神無月          燕太
入選 真っ白なファックスが象徴するものは?季語が効いている(荒 一葉)
入選 真っ白な無表情なファックスが届いた事が、過去に一度か二度ありました。その時の何とも言え無い一瞬の気持ち、無の気持ちを、季語の「神無月」で詠まれていることが凄いと思いました。秀作と思います。(佳楓)
入選 百代・帰心

4点句 思うほどことは進まぬ十二月         ビビサン
特選 コメントなし(ケン)
入選 ままならぬ世の中、そして十二月。(垣内孝雄)
入選 確かに、そうですね。予定外の用事がポコポコ入り込んできたりして。「十二月」の季語が動きません。(康子)
入選 そうですねぇ。あれもしなきゃ、これもしなきゃぁと予定だけはして、カレンダーは真っ赤ですが、予定通りに行かない毎年です。十二月の季語がしっかりと、我が身に響きました。(佳楓)

3点句 裸木の有無を言はせぬ気骨かな          佳楓
特選 寒さに耐えて無言の裸木に気骨を感じる作者に同感(荒 一葉)
特選 一読して、潔いという印象を持ちました。中七の有無を言はせぬ、ここに魅力を感じます。一枚の葉さえもない、厳寒の中に立つ、木々の風景が立ち上がってきます。切り取りが見事に決まっています。(ビビサン)
入選 ケン

3点句 落つること忘れて滝は凍て始む        ビビサン
入選 「落つること忘れて」の措辞に納得(荒 一葉)
入選 冬青・ケン

3点句 紙すきの音聴きにくる雪女郎           佳楓
入選 紙すきの音を雪女が聴きに来る妖しげな雪景色が魅力(荒 一葉)
入選 彰・ケン

3点句 地震(ない)あとの空の牛舎や衾雪        ケン
入選 福島の大震災を思っての句と思はれます。賑わっていた牛舎も今は、薄暗く寒々とし、屋根には真っ白な雪がほっこり、もっこりと積もって、何とも言え無い空っぽの牛舎を詠まれている句ですね。(佳楓)
入選 すーちゃん・こう子

2点句 正面のシュート逸れたり鎌鼬         蒼鳩 薫
入選 すーちゃん・帰心

2点句 汝が植えし山茶花に告ぐ汝の余命         百代
入選 内容の重さを山茶花が掬い上げている気がする。(みな子)
入選 こう子

(前書き)昭和37年紅白初出場「寒い朝」
2点句 寒き朝吾らは今もサユリスト            彰
特選 吉永小百合さんはどうしていつまでもあんなに綺麗なんでしょう!「寒い朝」と言えば、男女関係なくメロディが頭の中に流れますよね。そして歌っちゃいますよね♫(こう子)
入選 帰心

2点句 湯の熱を使ひまわして冬厨         すーちゃん
入選 百代・ 彰

2点句 冬蝶や淡き色して叢へ              帰心
入選 百代・冬青

2点句 花八手メモメモメモの老の日日          冬青
特選 八手の花の形状はたくさんの小さな手を思わせ、その手からたくさんのメモへと連想がつながる。それはうっかりや失念を防ぐ老境の日々の暮らしの一齣。物に即して日常を明るく詠まれている。(すーちゃん)
入選 きれいな季語ですね。八手の花がたくさん咲いている様子と、「中七」が良い感じに重なってると思います。(康子)

2点句 御朱印の朱も鮮やかに冬に入る          燕太
特選 冬を感じるのが、御朱印の朱の鮮やかさというのが良い。(みな子)
入選 ビビサン

2点句 斥候の鵠の崩す逆さ富士             ケン
入選 美しい景を崩す、偵察隊のくぐい、これも又、逆さ富士の景色に色を添えてより一層に、荘厳な一枚の絵になる事でしょう。(佳楓)
入選 冬青

2点句 冬ざれや手のひらに吹く除菌液        荒 一葉
入選 コロナ禍での句。(垣内孝雄)
入選 いつになったらこのコロナ禍は終わるのでしょう。不安といら立ちがつのりますね。そんな気持ちを冬ざれが表しているように思いました。(蒼鳩 薫)

1点句 俳句談義つづきは明日に日の短        ビビサン
入選 すーちゃん

1点句 祖母の蜜柑こつそりくれし昭和の夜        康子
特選 昭和の幼い頃にタイムスリップさせてくれる句です。祖母との懐かしい思い出が蘇ってきました。(帰心)

1点句 鯛焼や過勤の同僚ともに回れ右          百代
特選 過勤の同僚に鯛焼を、優しい心遣いが感じられる。(垣内孝雄)

1点句 つわの花木々の根元を照らす月        山田渡海
入選 百代

1点句 年の瀬や日差しのあれば硝子拭く          彰
入選 大掃除ではなくこまめに掃除。(垣内孝雄)

1点句 キャリーケース底にどっかと大根煮     すーちゃん
入選 大根煮を大量に持って出かけて行く逞しさを感じる。(みな子)

1点句 話す楽しさ少女らの白マスク        すーちゃん
特選 平明なことばで明るく若々しい情景が伝わってきます。(彰)

1点句 知らぬ間に微熱の床にたんぽかな        こう子
特選 家人の優しい気遣いで、身体だけでなく心まで温もります。(康子)

1点句 轟音や六機現る冬の空              康子
入選 ケン

1点句 あれやこれ欲断ちがたし師走かな       山田渡海
入選 ビビサン

1点句 句ノートの字の奔り出す師走かな         佳楓
入選 師走の忙しさが感じられる。(みな子)

〈俳句気まぐれエッセイ㉑ 猫の話③〉      今泉 かの子
名古屋と奥三河の二拠点生活をはじめて八年になる。どちらの家にも猫専用の通用口があり、猫は外と自由に行き来ができるようになっている。それは功罪相半ば、禍福はどうしてもある。
前に飼っていた猫は、福島に縁のある猫だった。どういういきさつがあって、愛知の山奥へ貰われてきたのかはわからない。被災され、飼うことが難しくなったからかもしれない。貰ってくれる人を探していると人づてに聞き、見に行った。当時、そこには何十匹と猫がいた。十何匹ではない騒ぎで、建設機材や資材が置かれた広い敷地のあちこちに、好きなように猫たちがいた。そこから一匹、かわいい子猫を貰ってきた。
子猫はしばらくすると二拠点生活にも慣れて、週明け、出かける準備を始めると、自分から車に乗り込んだりするようになった。移動中も、キャリーゲージの中で寝ていたり、大人しくお利口さんだった。
ただこの暮らし方は、猫にとっては大迷惑、ということも考えられた。実際「犬は人につき、猫は家につく」といわれる。家周辺を自分のテリトリーとして行動する猫にとって、自分のなわばりから離れることは、恐怖になるのかもしれない。そんな思いを山のご近所さん等と話題にしたとき、「きっと二倍楽しく暮らせてるよ」といわれ、そうかもしれないと、胸におさめた。が、人の都合に合わせてくれているのだろう、とも思う。
別れは突然やってきた。仕事から帰宅した夫が、家の前で横たわっているうちの猫を発見。車に撥ねられていた。私は家の中にいたのでその惨事を知らずにいたが、その時すでに向かいの保育園の方が、市へ連絡、知らない間に行政の手で回収処分されるところだった。いつもよりたまたま早い時間に帰宅したのが、幸いした。そうでなければ、ずっと探し回り、いつまでも心に引っかかったままだったかもしれない。最期の姿を見られたのは、よかったと思う。その後、犬猫を供養してくれるお寺で弔ってもらい、火葬したお骨は、山の家の近くの好きだった場所に撒いてやった。生きているときと同様、美しくのびやかに走りまわれるように。自由は危険と隣り合わせだった。一瞬のタイミングが招いた事故であろうが、たまたまというタイミングのよさもまた、有り難いことだったように思う。ただそれ以来、名古屋の通用口は閉めてしまった。

行く年やかなしくなくて出る涙         かの子

 



第29回若竹ウェブ句会(2022年11月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

6点句 庭の木はみな自由席小鳥来る         荒 一葉
特選 詩情豊か、特に「中七」が素敵です。(康子)
特選 コロナ関係の縛りで、どこへ行っても決まり、決まりの人間社会と比べるとなんと鳥の世界は自由なのでしょう!この俳句には、ほっとさせて頂きました。(冬青)
特選 本当にそうですね。今まで、庭の木は皆自由席、だなんて発想が湧きませんでした。楽しいですね~。心の広い発想、又勉強させて頂きました。小鳥たちも自由席を楽しんでいることでしょう。(佳楓)
特選 中七の自由席がいいと思いました。小鳥の鳴き声まで聞こえて来ます。それも自分の家の庭の木々ならば、なおのこと楽しい時間を過ごせそうです。贅沢な時間でしょうね。(ビビサン)
入選 「自由席」が面白いなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 そうなんです。鳥は自由に木の枝に来るのです。と言いたくなる。(みな子)

6点句 鬼の首祀るお寺や木守柿              ケン
特選 日本の風土が醸し出す世界。(垣内孝雄)
特選 どこの寺かは知らないが、そういう寺伝があるのだろう。それにまつわる伝説の顚末、しみじみとした味わいに木守柿が効果的だ。(燕太)
入選 木守柿の季語が「鬼の首祀るお寺」にじっくりと響き光景が脳裡を走りました。(佳楓)
入選 百代・冬青・ビビサン

5点句 風に群れ風乗り換へて赤とんぼ        荒 一葉
特選 風の流れと赤とんぼの様子がリズム良く詠まれている。情景の広がりとともに、赤とんぼの飛ぶ様子が楽しげに感じられる。(すーちゃん)
入選 とんぼの動きが風に見える。(垣内孝雄)
入選 草原に飛ぶ赤とんぼの様子が、とても爽やかで心地好い。(康子)
入選 風乗り換へての表現に惹かれました。(佳楓)
入選 冬青

5点句 聞き上手静かに草の実剥がしつつ         冬青
特選 子どもが母親に夢中で何かを訴えているのを、その母親が草の実を剥がしながら聞いているのでしょうか。聞いているのは作者ではなくて、作者の娘とか嫁かな、と思いました。(蒼鳩 薫)
入選 「今日は、どこまで行ってきたの?」「紅葉の進み具合は、どう?」などと話しかけながら、手を動かしている様子が伝わります。(康子)
入選 彰・こう子・ビビサン

4点句 包丁で削る鉛筆文化の日           蒼鳩 薫
特選 鯨肉を食すことを食文化などと使われるが、この句の「文化」こそ私が文化に対し抱く肯定感に近いものである。(彰)
入選 鉛筆削り器もあろうに、肥後ノ守もあろうによりによって包丁とは、文化の日が皮肉。(荒 一葉)
入選 包丁で削った事も…今は昔。(垣内孝雄)
入選 筆記具も格段に進歩している昨今。鉛筆を削るに包丁とは珍しい。文化の日とのアイロニーが利いている。(燕太)

4点句 寒晴や玉砂利を踏む角隠し          垣内孝雄
特選 コメントなし(ケン)
入選 晴れの境内、角隠しがゆっくりと進む、お目出度い景が清々しい。(荒 一葉)
入選 「寒晴れ」「玉砂利」「角隠し」この三つの言葉が無駄なく響き合っていて神聖な雰囲気の中、女性ならではの哀しみをも読み取らせて頂きました。(佳楓)
入選 こう子

3点句 日短や大工の探す老眼鏡            こう子
入選 急がねば日が暮れると、慌てている大工さんの様子が目に見えるようです。(康子)
入選 すーちゃん・冬青

3点句 生き様を肝斑に刻みてちゃんちゃんこ       佳楓
入選 還暦を迎えられた方の感慨と思いますが、私から見ればうらやましく若い年齢です。人生それからという地点です。(彰)
入選 こう子・ケン

3点句 針穴に糸入り難し冬に入る            百代
入選 ふと指先に冬を感じて、生活の中での季節感あり。(荒 一葉)
入選 あるある感で共感しました。簡潔な感じがいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 冬に入る心持が窺える句。(垣内孝雄)

2点句 逸れ球を犬が咥えて草紅葉            燕太
入選 賢い犬が球を咥えて草紅葉の中、帰って来る様子が思い浮かぶ。(みな子)
入選 ビビサン

2点句 静けさを手紙のごとき一葉落つ          康子
特選 静寂の中を散る一葉を手紙と見た手柄、さて誰からの手紙か?(荒 一葉)
入選 冬青

2点句 ガンダムの巨き立像冬もみぢ         垣内孝雄
入選 ガンダムの立像は何処にあるのか不案内ですが、おそらく観光地のミューデイアムか何かでしょうか。冬もみぢがよく生きている。(燕太)
入選 百代

2点句 人は誰も帰る灯を持つ暮れの秋        荒 一葉
入選 彰・ビビサン

2点句 鯔飛ぶやゆあーんゆよーんと波打てば       帰心
特選 中也の詩の海のような海を元気に鯔が飛ぶ、鯔が飛ぶだけで海は明るく感じられる。(みな子)
入選 すーちゃん

2点句 冬ざるる週に三度のしまひ風呂        垣内孝雄
入選 農作業の後の最後の風呂は湯船の底に砂が溜まったりして後始末さえたいへんでしょうね。私はそんなことを想像していました。(蒼鳩 薫)
入選 「週に三度」「しまひ風呂」の措辞から、いろいろなドラマを想像します。私は子供と孫と同居している優しいおばあちゃんを思い浮かべました。(帰心)

2点句 断崖を風に委ねて秋の蝶           蒼鳩 薫
入選 すーちゃん・百代

2点句 小さきこと片付きにけり秋暮れる          彰
特選 年を取ると、先に予定やら問題等があるとそれが済むまで心配になります。秋の物悲しい季節と自分の老いを上手に詠まれていると思いました。(こう子)
入選 秋は日暮れが早いので、大きいこと、時間のかかることはできませんね。(康子)

2点句 機織りは二人初冬の木綿蔵         すーちゃん
入選 百代・彰

2点句 初雪の富士に燃えるや竜王戦           ケン
入選 「富士の初雪」が秋の季語と初めて知りました。富士と竜王戦が大変に響き合っていて、沈黙の中の熱い戦いを彷彿とさせられました。特選の次の秀逸句と思いました。(佳楓)
入選 こう子

2点句 中天の月の見てゐるストレッチ          康子
入選 夜の暮らしのあるべき姿だと、自分に言い聞かす毎日だ。だらだらと過ごしているので。(みな子)
入選 ケン

1点句 納豆と粥取る宿のビュッフェかな         百代
入選 確かに、普段あまり食べないお粥も、旅の宿の朝食では食べてみたくなります。(帰心)

1点句 豊の秋バス乗り継いで温泉へ          みな子
入選 「豊の秋」の季語から、秘境の温泉へ向かう作者のワクワク感が伝わってきます。(帰心)

1点句 冬ざれや紙すく村の四季桜            ケン
特選 コメントなし(百代)

1点句 食事終え溜息一つ秋の夕           山田渡海
入選 ケン

1点句 防空壕冬青草に埋まるる          すーちゃん
入選 そのまま静かに埋もれていてもらいたい。冬草の青さがみずみずしく感じられる。(みな子)

1点句 音も無く記憶剥るる寒さかな           佳楓
入選 ケン

1点句 아오야마アオヤマてふ店の看板秋思ふと      帰心
入選 ハングルに意表をつかれたが、効果的だ。作者は韓国への思い入れがあるのだろう。(燕太)

1点句 アイラブユーと宣う孫やとろろ好き        冬青
入選 すーちゃん

1点句 赤押せば熱い湯の出る文化の日          燕太
入選 押せば湯の出る便利さ、これも確かに文化(荒 一葉)

1点句 白煙に枯菊の香を聞く夕べ           こう子
入選 枯菊を焚く「音」と「香」を「香を聞く」と修辞。(垣内孝雄)

1点句 ひとときを黄葉散りゆく朝の窓         みな子
入選 詩的で美しい句だなと思いました。(蒼鳩 薫)

1点句 秋澄むやペットボトルをつつく鳥         康子
特選 澄んだ秋の空気の中で、鳥がペットボトルをつつく乾いた音が聞こえてくるようです。(帰心)

1点句 古希過ぎの新築決意春を待つ          こう子
入選 親の建てた家を取り壊し、70を過ぎて家を建てる…嬉しさと淋しさと、少しの不安の入り混じった気持ちではないかと推察します。いい「春」が到来することをお祈りします。(帰心)

〈俳句気まぐれエッセイ⑳ 猫の話②>      今泉 かの子
猫は今、ペットとして不動の人気を保っている。私のまわりにも猫好きの人は多い。がもちろん、なんとなく薄気味が悪くて感覚的に苦手という方や、猫にくわえられた小鳥の無残な光景を幼いときに見て、その記憶でちょっと、という句友等、それなりにはおいでになる。私は、元々それほど嫌いではないという程度だった。唯、自分が飼うという選択肢は全く、全然なかった。
猫が暮らしの中にいるようになったのは、結婚してからである。法事か何かで出かけた義母と夫が子猫を拾って帰ってきた時は、ホント驚いた。私にとって猫を拾ってくるのは、物語の世界のことで、現実にそんな行為を大人二人がするとは思わなかった。段ボールから鳴き声がしていて、そのまま置いては帰れなかったらしい。妻として嫁として了承せざるを得ない、多数決でもあるし。猫たちは、やはり栄養失調や目やにのせいか目が塞がったままで、結局入院。その費用が十万以上もかかって、それにも驚いた。猫には保険がないのだから(当時は)そうか、と納得したことも、初めてのことなので記憶に残っている。
以来何十匹と、いろいろな猫と縁があった。交通事故も何件かあり、猫エイズでいざりのようになってしまった猫もいた。また、突然消息を絶った猫もいた。高熱の子を毛布にくるんで病院へ運ぶべくバタバタしていた日、気づいたら猫の姿がなかった。忘れもしない雪の降る日だった。いきなり消えた猫の行方を案じて、大須辺りの、とある神社に詣でてみたが、再び現れることはなかった。ひょっとして死期を悟っていたのかもしれない。美しく賢い猫だった。
私自身、特に猫に執着はなかったが、そのかわいらしさや気ままな様子をいつも身近にして、いつの間にか猫が好きになっていたと思う。ところが、思わぬことが判明した。なんと、私は猫アレルギーだったのだ。三十年以上何の問題もなく、猫と暮らしてきて、えっ、いつの間に、いつから?これは、どういうことか。
今まで出会ってきた多くの猫たちが、思い出を残してくれたように、私の体に幾ばくかのアレルゲンをそれぞれ残していったのかもしれない。積もり積もった結果、喘息の症状となって体に表れたのか。ただアレルギーの数値はそう高くなく、今のところ普通に猫と暮らせている。初め遠かった猫の存在は近くなり、今は少し距離を取りながら、なおかつ愛しい。案外、ほど良い関係なのかもしれない。

湯豆腐や年を重ねてわかること          かの子

 



第28回若竹ウェブ句会(2022年10月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

7点句 噛み合はぬ会話の増えて秋の暮           康子
特選 高齢の方との会話でしょうか?日本の少子高齢化の縮図をみるような句だと思いました。老いについて色々考えることがあります。読めば読むほど味わい深いものがあります。(ビビサン)
特選 まさに私もその通りでございます。最近はとうとう耳迄疎くなりまして、特に主人との会話は、両方が耳疎く言葉も足りずに、夫婦喧嘩になってしまいます。「秋の暮」の季語が身に染みました。(佳楓)
特選 ケン
入選 「秋の暮」の季語に切ない思いが込められています。(帰心)
入選 噛み合ってない夫婦の会話。それでも相手を咎めるでもなく、いら立つでもなく静かに時間は経過する。(燕太)
入選 我が家の様子そのものである。(みな子)
入選 こう子

5点句 何事も身の丈が良し秋の空            康子
入選 季語「秋の空」が動きませんね。(蒼鳩 薫)
入選 そうですねぇ。再認識させて頂きました。(佳楓)
入選 冬青・ビビサン・ケン

5点句 萩伏してゆふべの雨の強さかな           彰
特選 萩の花の様子から昨夜来の雨の強さが生き生きと伝わってきました。(蒼鳩 薫)
入選 昨夜の雨の強さに心痛めて萩を見る作者の姿が見える(荒 一葉)
入選 冬青・ビビサン・すーちゃん

4点句 バス停にバスを見送る十三夜         垣内孝雄
特選 おそらく大切な人の見送りでしょう。「元気でいてね。また会いましょう。」と祈るような気持ちが伝わります。明るい満月の光が、作者を包み込んでいます。(康子)
入選 バス停にバスを見送るとは、行き先が違うバスを見送るのかな?しみじみとバスの灯りを見送る感じがよい。(みな子)
入選 燕太・ビビサン

4点句 木の実ふる義母遺したるびんざさら     すーちゃん
特選 義母が残したのが素朴な楽器だというのがとても心惹かれた。(みな子)
入選 木の実が降って地面に落ちる音とびんざさらを打つ音が共鳴するかのようです。(帰心)
入選 義母様は民謡や音楽に親しんでおられたのでしょうか。ささらの乾いた音と季語の取り合せがいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 木の実がぽとりと落ちてくる中、びんざさらのかしゃっという音が聞こえてこないか耳をすませてしまいます。(彰)

3点句 二階から撒く婚の菓や天高し           百代
入選 最近はあまり見かけなくなったが、嫁菓子を配る風習、天高しの季語とよくマッチしている。(燕太)
入選 懐かしい景です。今も廃れずにあることがうれしい。(康子)
入選 こう子

3点句 小さな靴と大きな靴と花野          ビビサン
特選 7・7・3の破調の句、句意も良い。(垣内孝雄)
入選 すーちゃん・冬青

3点句 無花果やふくらみ初む子の乳房         こう子
特選 子の成長と無花果を見つめる作者の眼が重なる(荒 一葉)
入選 少女の成長のうれしさを優しく詠まれています。(帰心)
入選 ケン

3点句 遠き家(や)の灯につづく虫の闇           彰
入選 虫の闇がとおくの家の灯りに続いているのが、ほのかな明るみを感じさせてくれる。(みな子)
入選 荒 一葉・百代

3点句 出先より戻りし僧の赤い羽根           燕太
入選 どこかで募金されたのですね。黒い僧衣に赤い羽根が映えます。(康子)
入選 すーちゃん・百代

2点句 肌寒やアラーム探す指の先          荒 一葉
入選 起きたくない時効(候?)になりましたね。(垣内孝雄)
入選 彰

2点句 東京は無愛想な街ちちろ鳴く         ビビサン
入選 地方出身者には冷たい大都会東京。そんな街角に聞こえる虫の音。ほっと一息つく作者に共感する。(燕太)
入選 彰

2点句 「死ぬ死ぬ」と言ふその口に熟柿かな        佳楓
特選 何ともユーモラスな句だと感心しました。死ぬ死ぬと言いながら熟柿には目がなく食べる老人。無心に食べる動作まで見えてきます。(こう子)
入選 ご長寿おめでとうございます。まだまだお元気で頑張れそうですね。(蒼鳩 薫)

2点句 空の秋鱗屋根には風見魚            みな子
特選 「風見魚、鱗屋根」なるもの初めて知った。滑稽な風見魚も「空の秋」も明るく愉快。(彰)
入選 風見魚、初めて知りました。スマホで写真を見て「鱗屋根」の鱗と「風見魚」の魚と響き合っていて、季語「空の秋」に溶け込んでいて、素晴らしいと思いました。(佳楓)

2点句 姨捨の空引き離し稲唸る             佳楓
入選 「姨捨」が活きた句。(垣内孝雄)
入選 ケン

2点句 籾殻焼くや畑に据えたる衣装缶       すーちゃん
特選 昭和の象徴である衣装缶、そして籾殻の焼ける香り―ノスタルジーを感じる秀句です。(帰心)
入選 廃物利用でしょうか。アイディアで生きる逞しさを感じます。(康子)

2点句 穂の国に山連なりて蜻蛉(あきつ)舞ふ        彰
特選 百代
入選 荒 一葉

2点句 蜜柑山フェリーの通ふ離れ島         垣内孝雄
入選 ビビサン・すーちゃん

2点句 猪鍋やガラス戸叩く渓の風            佳楓
特選 ガラス戸を叩く風は既に冬のそれだ。暦では秋の盛りでも山里の冬の訪れは早い。(燕太)
入選 百代

2点句 われに似る案山子に一票投じけり       荒 一葉
入選 百代・こう子

2点句 酒が出て会議ぐだぐだ夜長の灯          燕太
入選 昭和の感じが満ち満ちてます。中七が面白いと思います。(康子)
入選 光景が目に浮かびました。面白いですねぇ。私もお仲間に入れて下さいませ。(佳楓)

1点句 バスのボタン押したがる子や秋高し        冬青
入選 あるある感の句。(垣内孝雄)

1点句 葡萄棚「これがいいぞ」と杖の父        こう子
入選 年を重ねてこられたからこそ、お父様の葡萄の目利きは確かですね。(帰心)

1点句 刃こぼれの出刃に喰いつくたちの牙        ケン
入選 佳楓

1点句 体操をすれば足つる秋日和            康子
入選 ケン

1点句 朝さやかもくせいの香の隣家から         冬青
入選 澄んだ朝、木犀の香りが季節を運んでくる(荒 一葉)

1点句 蟷螂の斧振り上げて轢死せり           燕太
入選 恐れを知らぬ蟷螂の勇気とも哀れとも言える生き方ですね。(蒼鳩 薫)

1点句 折れそうで折れることなき稲穂かな      蒼鳩 薫
入選 人もかくありたいですね。(垣内孝雄)

1点句 白芙蓉琴弾く指は母の指             帰心
入選 白芙蓉が美しいと思う。琴を弾く指が母の指のようだという、ここが良い。(みな子)

1点句 碁敵と胡坐かきての今年酒          蒼鳩 薫
入選 こう子

1点句 障子洗ふ手にいつぞやの桟の傷         百代
特選 今ではなかなか使われなくなった季語「障子洗ふ」に実体験の手触りが生きています。その桟の傷に呼び起こされる昔の思い出。「いつぞやの」の表現も、どことなくおもしろみを感じます。(すーちゃん)

1点句 「望郷の歌」声に出し秋灯火          百代
入選 彰

1点句 とんぼうや南無阿弥陀仏の墓並ぶ        帰心
特選 冬青

1点句 爽やかや翔平くんの二刀流           荒 一葉
入選 冬青

〈俳句気まぐれエッセイ⑲ 歌舞伎 >       今泉 かの子
月に一度歌舞伎を観に行っている。といってもシネマ歌舞伎。ちょいと映画を観に行く感覚で、一人でぽいと行ってぽいと帰って来る。実は私も、という方も多いのではないかと思うが、素人にはもってこいの気安さである。
シネマ歌舞伎のよさは、大写しにされた役者の表情や舞台の様子がはっきり見えること。ぬめぬめギトギトの凄惨な殺しの「女殺し油地獄」では、滑って転んだ際の油の飛び散りようや、逃げ惑う着物の油の沁み込み具合まではっきり(油は、ふのりだそう)。また、演じる役者の表情、目の流し方や細かな手の動きに、心もようが見てとれるのだ。放蕩の末、刹那的な怒りで殺しをはたらいてしまう与兵衛であるが、そこに至るまでの甘ったれでどこかかわいげのある人間的な面がみえてこなければ、単なる悪人になってしまう。小屋の外では御法度な殺人をも美化してしまう歌舞伎とは、否定されるものを肯定に転換する、独特な美の世界でもあるようだ。
二、三年前のことになるが、オンラインで歌舞伎版「風の谷のナウシカ」を観た。水を使った大掛かりな演出やクシャナを演じた中村七之助の「気品」は今も印象に残っている。ただ、前・後編それぞれ三時間前後の長丁場。自宅のテレビ画面への配信なので、そこは自由な恰好でまた休憩も自由に入れられる。物語のスケールは壮大であるが、その点では気楽である。
そしてこの秋、御園座に玉三郎さま登場。東京への交通費を考えたらと、即チケットを購入。十月のお日柄もよき日、勇んでお出かけいたしました。まずは一幕の口上から。この日、二階席には市内の高校生等が招かれて(?)いたようで、「どうぞ伝統芸能を身近にするきっかけに」と視線を上げて呼びかけられ、そのあたたかくも凛と張った声は、私の胸にもさわやかに響いたのであります。ははっ、かしこまりました。役に入る前から、さすが玉三郎さまでありました。
さて「十種香」。透けて見える「綟張(もじば)り障子」の上手の一間に座っているのは、八重垣姫。後ろ姿の姫が、香を焚いて亡き人を慕う場面である。私が入手した席は、花道の下手とは反対側。残念とは思ったが、前から七列目。舞台から近いといえば近い。しかし、これがまたなんとも嬉しい席であったのだ。実際に姫が香を焚いたのである。その役者の好みのお香を焚くらしい。舞台上手から辺りに漂う、そこはかとない香り。思わずマスクを外して確認してしまった。ああ、この幸運、ありがたき幸せ。舞台という生(なま)のよさ。玉三郎さまの「きっかけ」という言葉が、心に残った秋となった。

恋ふ姫の襟足白し秋澄めり            かの子

 

 



第27回若竹ウェブ句会(2022年9月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

6点句 ちんちろりん騙され易きは妣ゆずり        佳楓
入選 中七の字余りで、「騙され易き」作者の(また亡きお母様の)心の隙をユーモラスに描いています。(帰心)
入選 字余りのもたもた感が「騙され易さ」を強調(荒 一葉)
入選 燕太・冬青・こう子・ケン

5点句 まづ箸は酢もみへと伸ぶ残暑かな         帰心
特選 さっぱりとした口当たりの良い酢もみ。残暑には自然の箸の動きですね。体が要求するのでしょうね。(蒼鳩 薫)
特選 酢もみに伸びる箸に季節感、季語が活きた(荒 一葉)
入選 百代・冬青・こう子

4点句 冬瓜汁けふの出来事二つ三つ         蒼鳩 薫
特選 冬瓜汁の冬瓜を箸で切り分けて、口に運びながら、今日の出来事をゆっくりと語り合っている―そんな家族の団欒の様子が見事に描かれています。(帰心)
特選 日々何事もなく穏やかに過ぎていく老夫婦の夕げ時、さっぱりとした冬瓜汁を食べながら、その日にあったささやかな出来事をぽつりぽつりと話して一日を終える様子が、ほほえましく描かれている。(冬青)
特選 老齢のご夫婦の静かな夕飼を想像しました。改めて話すことも無いので、今日ね、あのね、と報告をするのは奥様でしょうね。冬瓜汁、私も大好きです。冬瓜汁の季語があったかくて、穏やかな秀句と思い頂きました。(佳楓)
入選 冬瓜汁の淡白な味わいと何気ない家庭内の会話。(燕太)

4点句 盆の月あひるの並ぶ風呂の窓        すーちゃん
特選 お月さまの黄色、そして黄色のアヒルから、幼子のいる明るい家庭のほのぼのとした温もりを感じます。(康子)
入選 窓からの盆の月を風呂から眺めている。ずらりと並んだあひるたちがいいかんじ。(みな子)
入選 ビビサン・冬青

3点句 九月の風猫の重みを思い出す          みな子
入選 いつも膝の上に乗せたり抱いたりして、かわいがられていたのでしょう。秋風に寂しさを感じます。(康子)
入選 すーちゃん・彰

3点句 ミルで挽くコーヒーの香や今朝の秋      荒 一葉
特選 この句の作者は、よほどコーヒー豆にこだわりがあるのでしょう。今朝の秋、季語のはたらきにより、ほんとうに心地良いコーヒの香と、朝の心地良き時間が立ち上がってきます。ミルで挽く豆の音まで聞こえてきます。(ビビサン)
入選 秋の朝はハンドルを回して挽きたての熱い珈琲。味はもちろん、香りは格別ですね。(蒼鳩 薫)
入選 秋になったと思うだけで、コーヒーの香りがより深くなったのでしょう(康子)

3点句 うなぎ無きタレ丼食らふ残暑かな         ケン
特選 タレだけで十二分美味しいと思っていました。タレ丼てふ料理名も知り、長かった残暑もあと少し。(彰)
入選 ユーモラスな句だと思います。(康子)
入選 タレ丼と言う言葉を料理を初めて知りました。鰻のタレは本当に美味しくて、いろいろな料理に使えて便利ですよね。食欲の無い夏バテの折、鰻等食べたく無いので、作者は鰻のタレだけをかけて、食らったのです。(佳楓)

3点句 子の家に泊まりし今朝の空澄めり         百代
特選 我が子の成長を、子の家に泊まった朝の、澄んだ空に託して詠まれた。秋のさわやかな大気や青空と共に、実りの秋の豊かさも感じられる。(すーちゃん)
入選 所帯を持った我が子を頼もしく思う気持ちが「空澄めり」の措辞によく表れています。(帰心)
入選 彰

3点句 休耕地一枚借りて大根蒔く          ビビサン
入選 自然の中に身を置き、大根の成長を見るのは楽しいですね。収穫の嬉しさは一入でしょうね。(蒼鳩 薫)
入選 こう子・佳楓

3点句 仏壇の金継ぎ猪口へ新酒かな           ケン
入選 金継ぎ猪口。仏様は風流な方だったのでしょうね。新酒を供えてもらい喜んでおられることでしょうね。(蒼鳩 薫)
入選 ビビサン・佳楓

3点句 口八丁勝手つんぼの生見魂            佳楓
特選 「生身魂」でしょうか?自分の言いたい事だけは機関銃のように喋り、人の言うことは全く聞いていない。人はいいのですが…という人居ますよねぇ。思わず「いるいる!」と納得しました。(こう子)
入選 人物像が見えてくる(荒 一葉)
入選 冬青

2点句 唐辛子とことん朱を極むまで          こう子
入選 色を見極めながら筵で干す唐辛子。(垣内孝雄)
入選 百代

2点句 捨てられぬ菜切包丁きりぎりす        蒼鳩 薫
入選 きりぎりすの「餌」もこの包丁で。(垣内孝雄)
入選 ケン

2点句 新涼や空芯菜の茎そろふ          すーちゃん
入選 空心菜の食べ頃を思う。(垣内孝雄)
入選 百代

2点句 港江に帰帆の影や秋の暮           蒼鳩 薫
特選 静かな「景」、時の流れを感じる。(垣内孝雄)
特選 百代

2点句 青春の日活映画壜ラムネ             燕太
入選 日活映画と壜ラムネは青春の一ページ(荒 一葉)
入選 ビビサン

2点句 おはぐろのいつたりきたり狭き庭       垣内孝雄
入選 おはぐろ(川蜻蛉)と言う季語が、狭い庭?の風景を面白く詠まれていると思いました。ビル暮らしには、羨ましい限りです。(佳楓)
入選 百代

2点句 狂いなく回る秒針夏の果て            冬青
入選 一秒の狂いもなく正確に時を刻む時計が、季節の移り変わりを着実に促しているかのように感じた、という作者の感性が素晴らしいと思いました。季語「夏の果て」の選択が秀逸。(帰心)
入選 ビビサン

2点句 敬老の御祝い千円古団地             冬青
入選 諧謔味があって面白いなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 古団地がいいと思います。古くからの慣わしでしょう。それを続けているこの団地の繋がりのようなものが感じられます。(こう子)

2点句 オーボエの聞こえてきさう秋の川         帰心
入選 秋の川をオーボエの音色と捉えた作者の感性(燕太)
入選 秋の川をオーボエの音に例えるのが新鮮。(みな子)

2点句 子規の顔して聞き入るや虫時雨        荒 一葉
入選 子規の顔をしているのかも、私が虫の音を聞くときも。(みな子)
入選 あの有名な子規の横顔が、虫の声に耳を澄ましているように、見えてきました。(康子)

1点句 老人の私語を咎めず秋彼岸            燕太
入選 すーちゃん

1点句 一膳ではもの足りなさの今年米        ビビサン
入選 ケン

1点句 年寄の日てこずる三手詰将棋           康子
入選 三手詰めでてこずる老人になりました(荒 一葉)

1点句 長き夜にとけゆくホルン四重奏          帰心
入選 ホルンの四重奏が聴きたくなる。(みな子)

1点句 初老なる娘の手紙「お父さん」        垣内孝雄
入選 私は結婚が遅かったので娘はまだ初老とはいきませんが、「お父さん」は身に入みます。(彰)

1点句 身に入むや手の皺に祖母重なりぬ         康子
入選 「母」ではなく「祖母」であるところがこの句の眼目。大好きだった祖母の歳に自分も近づいてきたことへの驚きが、季語「身に入む」で鮮やかに描かれています。(帰心)

1点句 母の忌をのぞゐてくるる赤とんぼ         佳楓
特選 ケン

1点句 咲く萩を灯(あかり)となして散歩かな       彰
特選 明らかに雑草とは異なる萩の薄紅色を灯と捉えた作者の繊細な感性。(燕太)

1点句 秋草にマイクを向けてレポーター        こう子
入選 すーちゃん

1点句 虫聞くや壁はシートの仮住居          こう子
入選 ケン

1点句 一気読む村上春樹の夜長かな         荒 一葉
入選 燕太

1点句 黄金(こがね)の穂波にたゆたふ登呂遺跡     百代
入選 「豊の秋」を彷彿とさせる。(垣内孝雄)

1点句 足利も吉良も崇めず馬肥ゆる            彰
入選 すーちゃん

1点句 もっぱらの噂は萩の矢合(やわせ)かな      百代
入選 どこぞで開戦の秋か、私では意味が解せませんが、なぜか気になる句(彰)

1点句 美術部のモチーフとなる林檎たち       ビビサン
特選 林檎たちが生き生きと美術部で活躍しているのが良い。(みな子)

〈俳句気まぐれエッセイ⑱ 猫の話① >     今泉 かの子
猫が身近にいる暮らしは、もう三十年以上になる。
今の猫の母親は、山の家の辺りではみいちゃんと呼ばれていた。当時、体型の変化から子を産んだらしいと分かったものの、どこで産んだのかは分からなかった。けものに狙われやすいところや人の気配を母性は警戒する。まあそのうち、子猫を連れてくるだろうと云われていた。が、いきなりスピード違反の車かバイクにはねられた。交通事故による無残な死だった。母はいなくなったまま、子猫だけがどこかに取り残されている。近頃、周辺には鴉も増えてきており、さらわれてしまうかも、というご近所さん等の話だった。
捜索?もされたそうだが、見つからないまま数日が過ぎ、夕方なんとなく夫と、その時たまたま外に出ていた山の師匠と一緒に、近所の蔵の辺りを歩いてみた。そこで一瞬、小さな鳴き声が聞こえた。今思えば、空腹だったのだと思う。が、どこかわからない。と、蔵と倉庫の間のすきまに姿が見え、それから訳もわからず逃げようとする子猫を追いかけたり追い詰めたり。漬物樽をひっくり返したりして、てんやわんやの末、男性二人がかりで、二匹を無事捕獲。一件落着した。翌日、その蔵の辺りで事の顛末を輪になって話していたとき、「何かが動いた」と感知した達人がおり、そこでまた一匹確保。心細くなって出てきたのかもしれない。うろうろしていたら、獣や猛禽類にやられる可能性もあった。奇跡に近いような偶然が重なり、三匹とも守ることができ、ひとまずほっとした。
子猫等はしばらくの間、人の手で育てられた。見に行くと、三匹でじゃれ合ったり、固まって眠ったりしていた。師匠によれば、成長過程として地域猫となるか家猫となるか、区切りとなる段階があるそうだ。ある時期を過ぎたら、外で自由に過ごしてゆく方がよいということらしかった。結局、みなそれぞれに貰われていき、その内の一匹が今の猫。早くから人の近くで育ったせいか人なつっこい反面、寂しがり屋である。そして母を知らない猫である。

往来の隙間はみ出て猫じゃらし         かの子

 

 



第26回若竹ウェブ句会(2022年8月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

7点句 ただ聞いてやるだけ梨を剥いてゐる      荒 一葉
特選 実家に帰ってきた子のいろいろな悩みを聞いている親の姿を想像しました。(蒼鳩 薫)
特選 「聞いてやるだけ」にすごく親心を感じました。手は梨を剥いているのに耳は子の愚痴をしっかりと聞いている。けれど何もしてやれない、してはいけないの親心を感じました。(こう子)
特選 親子でしょうか。子がしゃべり続ける「動」と、耳を傾けている「静」の対比が良いと思います。(康子)
入選 聞き役に徹する作者。小道具の梨の使い方が巧い。(燕太)
入選 一読して、ほっとさせられました。いろんな景色が、想像させられますよね。私も、御句のようなおばあちゃんになりですわ~。(佳楓)
入選 百代・ビビサン

6点句 目打ちされ腕(かいな)にからむ大鰻       ケン
特選 百代
入選 大鰻の最後の抵抗―生き物の持つ横溢する生命力を見事に活写されました。(帰心)
入選 (目打ち)なる事葉初めて知りました。その様に元気のある鰻を食べてみた~いです。(佳楓)
入選 すーちゃん・荒 一葉・こう子

5点句 城址とてただ夏草の茂るのみ           燕太
特選 戦国期山城(やまじろ)か、町おこしで安易に復興された建築物より、夏草茂るばかりで地形の起伏そのものがいい。(彰)
入選 確かにこのような城址に行ったことがあります。「ただ」という措辞に哀愁を感じます。(帰心)
入選 城址とは、そんなものかもしれません。が、その昔、平和を夢見て戦をしていた兵たちがいたであろうと、思いを馳せます。(康子)
入選 本当にそうですね。もしかしたら沖縄の城址でしょうか?太陽(テダ)の、門は必ずと言って良い程有りますよね。〈夏草や兵どもがゆめの跡 芭蕉〉を思い出しますね。(佳楓)
入選 ビビサン

4点句 手も振らず夏野を抜けて逝きし友         佳楓
特選 茫々と茂る青い草原の果てへと一人逝ってしまった友。自分の思う道を一人でも歩いて行く潔さ、美しさを感じました。オマージュを込めた哀悼の意が伝わります。(すーちゃん)
入選 寂寥感とともに友への尊敬を感じました。(彰)
入選 こう子・ケン

4点句 夕立が露座大仏の背を流す            百代
特選 「流す」という措辞が秀逸。猛暑の中じっと外に座っている大仏を労わる気持ちが、その措辞より伝わってきます。(帰心)
特選 激しい夕立が大仏の背中をシャワーのように流れる感じがよい。大仏の背中しか見えない位置だと思う。(みな子)
入選 大仏様も気持ちがいいでしょうね。(蒼鳩 薫)
入選 すーちゃん

3点句 庭先の円きテーブル晩夏光          垣内孝雄
入選 ふと気付けば、テーブルの脚の影が少し長くなったような、雲の形も秋らしくなったような、そんな庭先の光景が浮かびます。(康子)
入選 百代・こう子

3点句 身のうちに恋ひとつ入れ夏果てる       ビビサン
入選 美しい夏の終わりだと思う。(みな子)
入選 荒 一葉・彰

3点句 走る子を諭す図書館夏休み         すーちゃん
入選 夏休みになった解放感から、つい図書館の中を走ってしまったわが子。作者はそのことが分かっているので、叱るのではなく諭したのですね。「諭す」の措辞から親子の情愛が伝わってきます。(帰心)
入選 荒 一葉・燕太

3点句 とうすみの青透けて病む手をひらく     すーちゃん
特選 か弱い糸とんぼ、青い色が透けて見るからに儚げだ。闘病中の痩せてしまった手をじっと見る作者。しみじみとした味わいの句。(燕太)
入選 小さないのちを愛おしむ作者の心情が表現されていると思いました。(蒼鳩 薫)
入選 静かな情景。病む手が痛々しい。とうすみとんぼの青が美しい。(みな子)

3点句 二人居のほど良き暮らし秋刀魚焼く        佳楓
特選 ささやかな二人暮らしが季語で生きた(荒 一葉)
入選 百代・彰

3点句 ここここと湿布貼り合ふ夏夕べ          康子
入選 ご夫婦の和やかな生活、共鳴・共感できる句。「ここここと」に実感する。(垣内孝雄)
入選 思はず笑ってしまいました。(失礼致しました)我が家も全く同じ光景です。「ここここ」の表現が素晴らしいですよね~。(佳楓)
入選 ケン

2点句 体操の集合場所は向日葵前          蒼鳩 薫
入選 「向日葵」が醸し出す世界、元気で暑夏を乗り切りましょう。(垣内孝雄)
入選 すぐに、夏休みの子ども会のラジオ体操とわかります。素直で良い句だと思います。(康子)

2点句 秋立つや若き法定後見人             帰心
特選 それなりの人が務める「後見人」、季語「秋立つ」が活きた句。(垣内孝雄)
入選 すーちゃん

2点句 馴れ初めの話に戻る夜長かな         荒 一葉
入選 静かに時間が流れますね。(蒼鳩 薫)
入選 ひょんなことから二人の馴初めの話になった。昔のことだ。それにしても夜が長くなった。気がつけばまた同じ話に戻っている。ありがちな日常を活写。(燕太)

2点句 念力も魔法も効かぬ溽暑かな           燕太
入選 効き目があれば、どんなに嬉しいことか…。(康子)
入選 ケン

2点句 採れたての茘枝の陽の香刻みけり         佳楓
入選 暑い日差しをいっぱいに浴びた美味いゴーヤですね。陽の香の措辞がいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 ケン

1点句 蟷螂の背に一点のゆるびなし         荒 一葉
入選 ビビサン

1点句 女童の小鼻に汗や駅ピアノ          蒼鳩 薫
入選 話題の「駅ピアノ」女の子が聴き入っている様子が浮かび出る。(垣内孝雄)

1点句 本のなき書籍の棚に西日かな         蒼鳩 薫
入選 ビビサン

1点句 ボール追ふ犬追ふ子等の裸足かな        こう子
入選 「ボール」→「犬」→「子等」→「裸足」というスピード感のあるカメラワークの移動が楽しいですね。(帰心)

1点句 ペダル漕ぐポニーテールは白服で         康子
入選 自転車の疾走感がよい。白い服が印象的だ。(みな子)

1点句 産声とつくし恋しのハーモニー          ケン
特選 「つくし恋し」の季語改めて調べ直しました。昔、筑紫の人が旅先で病むで死ぬ時に(筑紫恋し)(筑紫恋し)と言いながら亡くなり、死後、蝉と化したそうです。「生」と「死」の自然の響き合いに、特選です。(佳楓)

1点句 香水やハグして迎ふフランス人         こう子
入選 すーちゃん

1点句 ポイ破れ泣く児笑ふ子夜店の灯          ケン
特選 一読しただけで金魚すくいの風景だとわかります。ポイ一枚のことだけど、おさな児のようすが目に浮かびます。夏の思い出の切り取りが巧いと思い特選にしました。(ビビサン)

1点句 読経中着信ひびく盆僧の          すーちゃん
入選 そういうこともあるだろうと思わせる。上五と座五を入れ替えたらどうだろうか。(燕太)

1点句 白壁のテラスの柵の青葡萄           こう子
入選 「青葡萄」の彩の移ろいと「白壁」、その対比に惹かれる句。(垣内孝雄)

1点句 天上川キリギリス鳴く坂の上           冬青
入選 「天上川」神戸東灘区、石積みと混凝土張りの急流と推測しました。(彰)

1点句 シロップは掛け放題のかき氷          みな子
入選 こう子

1点句 神様のごほうび星は飛んでくる        ビビサン
入選 飛んでくるがよい。何かご褒美をもらえた感じ。(みな子)

1点句 乳吞の児を抱く埴輪稲の花          垣内孝雄
入選 荒 一葉

1点句 戦無き世なれば涼し防空壕            燕太
特選 戦争さえ無ければ岩穴の防空壕も鍾乳洞みたいに涼しいだろうに。(ケン)

〈俳句気まぐれエッセイ⑰ イッセイミヤケ >  今泉 かの子
三宅一生氏が八月五日、がんのため亡くなった。八十四歳だった。世界的なデザイナーであり、オバマ大統領へ広島訪問を呼び掛けたことでも知られている。
軽くてしわにならず、気軽に洗える「プリーツプリーズ」は、どんな体型にも沿う衣服。約三十年前に買ったこのシリーズは、今も重宝している。プリーツの折り目のキュッとした感じが伸びて若干ゆるめになっても、それなりにフィットする。友達は喪服として黒の定番を着用。きちんと感もある。以前見た展示では、上から吊るされたプリーツが、躍るようにスウィングしていた。見ているだけでも楽しい。また、鮮やかな配色やたっぷりとした白の生地の大胆なデザインに、モデル体型には程遠いけれどいつか着てみたいと思った。
二十五年ほど前、四国、丸亀の美術館でイッセイの個展が開かれると聞き、友と一緒に出かけた。イサムノグチとコラボした企画だった。大満足で帰路に就いたがその後、丸亀のことが句座で話題になったとき、宗也師匠言。「丸亀に行って丸亀城を見ないとはなぁ。わっはっはー。」ああ、言われて初めて知った。知らないとはそういうこと。友と二人、大いに恥じつつ笑い合った。懐かしくも恥ずかしい。
また七年前、「若竹」創刊一千号の会がマリオットアソシアホテルで開かれることになり、司会を仰せつかった。来賓も大勢いらっしゃるとのこと。当時私は、イッセイミヤケコレクションの中でも、折り紙の服に惹かれていた。平面の折り紙が、立体として立ち上がることをコンセプトにした作品だ。一度着てみたい、夢をかなえるチャンスでもある。青山のスタジオのようなショップで、比較的おとなしいデザインの白を購入した。着用した当日の朝、ご高齢の同人から、「なにか出しものに出るの?」と尋ねられた。浮いているのかな…怖れていたことだった。いくらパーティーとはいえ、日常的な感覚では、やはり突飛すぎたのだった。懐かしくも恥ずかしい、たった一度きりの出番であった。が、安易に着られなくてもお気に入りに変わりはなく、今も私の元で眠りについている。
生前、テレビ出演された三宅氏は「作り手半分、着て(手)半分」と言ってみえた。作り手から離れて、着ている人とのコラボレーションで生かされるのだと。また、身体と衣服の間の空間こそが大事とも。我田引水をどうかお許しいただきたい。それは、俳句と通ずるものがあるように私には思えるのだ。

イッセイの光あらたや広島忌           かの子

 

 

 



第25回若竹ウェブ句会(2022年7月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

5点句 短夜の猫の潜り戸抜ける音           みな子

特選 猫を感じる短夜、健やかな生活を思う。(垣内孝雄)
特選 早朝に小さな音がして、猫が自由に出かけてゆく様子。そして今、自由に日常生活を送ることができる有り難さを、感じずにはいられません。(康子)
入選 猫の足音は聞こえないから、潜り戸の開閉か何かの音だろう。短夜の雰囲気がよく出ている。(燕太)
入選 すーちゃん・こう子

5点句 トラックは夫の愛車よ雲の峰        すーちゃん
特選 トラックをこまめにメンテして仕事に励む夫をあたたかく見守る妻、穏やかに過ぎ行く日日の事が、上手く詠まれている。(冬青)
入選 おそらく軽トラックなのであろうか、細い道、曲がりくねった道も軽快に走る。今日も夫は軽トラで元気に走り回っている。雲の峰が利いている。(燕太)
入選 作者のご主人様がとても頼りがいのある方であることが、季語「雲の峰」から伝わってきます。(帰心)
入選 大きな入道雲の下をさっそうとトラックが走る情景が見える。(みな子)
入選 こう子

5点句 蜜豆もついて海軍カレーの日           燕太
特選 海上自衛隊では曜日感覚確認の為、金曜はカレーの日、と聞いたことがある。海軍カレーの硬派な感じと蜜豆のやわらかい感じ。辛口の食事を甘口のデザートで〆れば、きっと食後の満足感もアップすることだろう。(すーちゃん)
入選 「蜜豆」という愛らしい季語に「海軍」という厳めしい措辞の取り合わせに俳味を感じます。(帰心)
入選 「蜜豆」と「カレー」のセット、お得でしたね。(垣内孝雄)
入選 昭和の平和な時代を思い浮かべました。(蒼鳩 薫)
入選 百代

5点句 新樹光実習生の細き指              康子
特選 実習生の初々しさが、「細き指」の措辞から伝わってきます。季語「新樹光」との取り合わせも絶妙です。(帰心)
特選 百代
入選 「細き指」が読み手にもたらす「読み」(垣内孝雄)
入選 実習生の若い細い指が、新樹光によく合っている。(みな子)
入選 冬青

4点句 茄子ひとつ捥いで事足る一人の餉         燕太
特選 納得です。私も歳と共に食が細くなり本当に食べられなくなりました。なので茄子ひとつで食事が出来るこの方に共感しました。「事足る」が面白い表現だと思いました。(こう子)
入選 昼餉の一文字は「け」または「げ」? 茄子の吾ひとりなら塩もみです。(彰)
入選 荒 一葉・すーちゃん

4点句 建て替えは二間でよしと草を刈る        こう子
入選 上五、中七と座五の離れ具合が絶妙。(燕太)
入選 深く共感! 平屋の二間での究極の断捨離生活、憧れます。(帰心)
入選 彰・ケン

4点句 昼寝覚め等身大に四肢もどす         ビビサン
入選 あるある感が我がことのように。俳味があって面白いなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 荒 一葉・すーちゃん・佳楓

4点句 空蝉よ無名戦士の墓抱え             ケン
入選 内容の深く重い句だなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 ビビサン・佳楓・こう子

3点句 少年の好奇の素手や青蛙           荒 一葉
入選 ビビサン・冬青・こう子

3点句 梅雨明けの陽の香を配る新聞屋          佳楓
特選 新聞に日の匂いがすることがとても快いことだと思い出す。新聞とともに日の匂いが配られることのありがたさを思う。梅雨明けらしい。(みな子)
入選 明るく爽やかな気持ちのいい句だと思います。(康子)
入選 ケン

3点句 夕顔のぽっと灯りし妣の忌日           佳楓
特選 ケン
入選 夕闇に芳香と共に浮かび上がる夕顔の花の表現がステキです。亡きお母上の優しさと重なるのでしょう。心に沁みる句です。(康子)
入選 百代

3点句 別人になってみたくてサングラス        こう子
特選 変身願望は誰にでもある。季語のサングラスの使い方が巧い。(燕太)
特選 なんとなく、感覚的な表現ですがわかる気がします。気分が変わるといいますか、街の風景もきっと変わって見えたことでしょう。誰かに街で再会しても、相手は誰だか気づかない、展開が読者に委ねられています。(ビビサン)
入選 彰

3点句 人は誰も常は善き人蟻の道          荒 一葉
入選 現在のウクライナ情勢と平和な時代と複雑ですね。深い内容の句のように思いました。(蒼鳩 薫)
入選 ビビサン・冬青

2点句 前世で吞まれて以来蛇ぎらひ           燕太
入選 ビビサン・すーちゃん

2点句 皮脱ぎて深き緑や竹の稈(かん)         帰心
入選 「竹の皮脱ぐ」が夏の季語なんですね。知りませんでした。竹の稈の新鮮な青さが伝わります。(康子)
入選 百代

2点句 よれよれの腹筋背筋心太           荒 一葉
入選 佳楓・ケン

2点句 沢音にとどまるほたる飛ぶ蛍        すーちゃん
入選 「ほたる」の静と「蛍」の動ー平仮名と漢字の選択の妙!(帰心)
入選 螢火の動きが沢音と奏でる世界。(垣内孝雄)

2点句 アイロンを当てしハンカチ一人旅       蒼鳩 薫
入選 旅に出る「心構え」を読み取る。(垣内孝雄)
入選 彰

1点句 羊蹄の道ゆづりあふ鳩と吾            康子
入選 羊蹄山の道を譲り合うのは、鳩と私というのは、他に人気のない静かな道を想像させる。(みな子)
※羊蹄は「ぎしぎし」のこと(作者のコメントより)

1点句 未来図は銀河のごとき蟻の列         蒼鳩 薫
入選 百代

1点句 筆まめの「かしこ」で終わる暑中見舞     ビビサン
入選 荒 一葉

1点句 行儀よき世にくづし食ふ冷奴           帰心
入選 行儀良いことがまずあげられるような世の中で、冷奴ぐらいは好きなように崩して食べよう。(みな子)

1点句 雷雲せまる荒瀬の弓なり竿            ケン
入選 弓なりの竿が気になりますねぇ。「雷雲せまる」に釣り師の焦りを感じました。(佳楓)

1点句 手習いの墨は速乾日の盛り            百代
入選 荒 一葉

1点句 夏空や柵の帽子は褪せてゆく           康子
入選 冬青

1点句 のうぜんの色零れ落つ雨後の道         こう子
入選 のうぜんかづらの花の鮮やかなオレンジ色、雨上がりの道なら、より際立つでしょう。(康子)

1点句 沙羅の花ノストラダムスの大予言       垣内孝雄
特選 1999年7月、人類滅亡との予言、今迄余り気にしていなかったが、今のウクライナ、ロシア戦や、コロナの七変化の渋さに、不気味な未来の危機への警告を感じます。沙羅の花の白が警告しているようです。(佳楓)

1点句 夜濯(よすすぎ)や熊野古道に返す土       百代
特選 思いの深い句だなと思いました。取り合せがとてもいいなと思いました。(蒼鳩 薫)

1点句 仰ぎ見る去(こぞ)年の残花や花さびた       彰
入選 ケン

1点句 扇風機緩やかに揺れところてん          冬青
特選 大きな窓から蝉の声。カタカタと遠い昔の風がここちよいです。(彰)

1点句 でで虫や急かず凹まず卒寿まで          佳楓
特選 季語でで虫に託し、余生の生き様を詠んだ句に共感(荒 一葉)

 

〈俳句気まぐれエッセイ⑯ サーカス 〉     今泉 かの子
初めてサーカスを見たのは、小学校三、四年頃「木下大サーカス」。場所は豊橋だったと思う。何を見たのか全然覚えていないが、それはもう感動、感激で、その嵐が胸中を吹きまくった。自分のためではないのに「こんなにまでしてくれて」という思いがあふれ、母に「サーカスの人にお礼を言いに行きたい」と言った。母は黙ったままだったが、しばらくして父が「拍手をいっぱいすれば、それがお礼になるんだよ。」と。なるほど。その言葉に少女の私は、もう精いっぱい拍手をした。今でも、ちょっと困ったような変な顔をしていた母の表情や、父のやさしい物言いは、はっきり覚えている。その後、〈十歳の吾に出会ひたるサーカスの夏〉〈サーカスを見て新しき年迎ふ〉等の句を作った。
近年、敬老パスをもらう身になって、たまたまサーカスのチケットが手に入った。「木下大サーカス」場所は名古屋の白川公園である。それは楽しみに出かけた。客席までピエロが来て、日傘や杖を顎に乗せたり、おどけた仕草を直ぐそばでみせてくれたり。皮のベストをはおった筋骨隆々とした猛獣使いが、なにやら獣めいているのも、華やかな舞台の奥のほの暗い様子も、どこか興を誘うものがあって、それなりにおもしろかった。
また、調教されたライオン等の芸も、確かにすごかった。が、驚嘆するものの、つい、そこに至るまでの訓練やらに思いがいってしまう。実際、楽しめたのはこの辺りまで。美女が空中を飛び交う瞬間や、想定をはるかに超える曲芸には「お願いだから、もう無理しないで」「どうか、無事に降りてきて」と祈るばかりになっていた。心配で心配で、見ていられない。心臓がどきどきして、そのバクバクに、耐えられなくなるのである。
私は、サーカスを楽むには年を取りすぎた。と思う。少女の頃の昂ぶりは、今や遠いものとなってしまった。さびしい気もするが、年を取るのは自然のならい。抗いようもなく普通のこと。この心と体でしばらくを、これからを過ごしていくのだと、しみじみ思う。

ソーダ水ピーターパンの靴とがる          かの子

 



第24回若竹ウェブ句会(2022年6月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)

6点句 青蜥蜴生きるに尻尾切る本気     荒 一葉
特選 生きるためとはいえ、自分の体の一部を自ら落とす、その行為に自分の心情をたくし一句に仕立ててきたところがよかったと思います。下五の「本気」が、言い得て妙です。(ビビサン)
特選 青蜥蜴の本気が伝わってくる。(みな子)
入選 弱い動物にとって生きることは逃げることですね。自らの身を切って生き延びる青蜥蜴の気持ちが詠まれていいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 すーちゃん・帰心・佳楓

5点句 仏壇にまず膝を折る帰省の子       佳楓
入選 「景」が浮かびます。(垣内孝雄)
入選 荒 一葉・ビビサン・ケン・こう子

5点句 股ぐらのまくなぎ払い王手飛車      ケン
特選 まくなぎの方は適当にあしらえばよい。とにかく絶好のチャンスなのだ。(燕太)
特選 今は無き父、兄を思いだしました。昔は、夏の蒸し暑い夕方、縁台で浴衣の裾を捲って将棋を指す光景が見られましたですよね。大事な一番を((まくなぎ)が、纏いついて煩い!スッキリ、ハッキリ、ドッキリ、です(佳楓)
入選 縁側で指している将棋でしょうか。あるある感が面白いなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 縁台将棋でしょうか。集中するあまり、目を将棋盤に近づけている様子が伝わってきます。(康子)
入選 荒 一葉

5点句 今日も来て守宮真白き腹曝す       燕太
入選 貼り付く守宮のお腹、可愛い顔をしていますよ。(垣内孝雄)
入選 網戸とか硝子戸にくっついている様子が面白いですね。私も守宮を手に取って遊んだことがあります。(蒼鳩 薫)
入選 意外にも守宮は同じ所にいることが多く、「今日も」が実感?(みな子)
入選 吸盤で、ガラス窓の外に張りついている守宮の様子が浮かびます。(康子)
入選 百代

4点句 母の忌の六月六日雨静か         百代
入選 深くて、鎮まる句。(垣内孝雄)
入選 すーちゃん・帰心・彰

4点句 友達となりて日傘の中に入る     ビビサン
特選 和やかな句ですね。(垣内孝雄)
特選 異性なのか同性どうしかわからないけど、なんだかいい。(彰)
入選 帰心・ケン

4点句 陶枕や昭和一桁頑固なる       ビビサン
入選 陶器枕を季語にした作者のセンス。(燕太)
入選 帰心・こう子・佳楓

4点句 疼く歯は生きてる証梅雨の雷       康子
入選 歯が痛いのは生きてる証拠、それは分っているがどうにかならんか。(燕太)
入選 荒 一葉・こう子・佳楓

4点句 しくじりは明日の糧よかたつぶり     帰心
入選 「かたつぶり」が良いと思います。片目つぶって大目に見てって感じがして…。(康子)
入選 荒 一葉・彰・佳楓

4点句 十薬や寺にひと間の開かずの間   すーちゃん
特選 十薬が繁っている場所は陰りが感じられ、開かずの間、の言いがさらにその雰囲気強めている。(冬青)
入選 「開かずの間」は気になります。重要文化財でもあるのでしょうか。(康子)
入選 燕太・百代

3点句 時の日や六個の時計みな違ふ       康子
入選 アナログ時代なら2,3分の違いは許容範囲だったが、デジタルの現代は1秒でも許されない。(燕太)
入選 すーちゃん・冬青

3点句 壁穴に活路を見つけ油虫       蒼鳩 薫
入選 油虫のすばやい動きが、「活路」が佳い。(垣内孝雄)
入選 ビビサン・ケン

3点句 娶る気のさらさら無くて田を植うる    燕太
特選 この男性の来し方行く末をいろいろと想像したくなります。ドラマがひとつできるくらい想像力をかきたててくれる句です。(帰心)
特選 親の焦る気持ちと息子ののほほんとした様子の対比をとても面白く詠ませて頂きました。(こう子)
入選 ケン

3点句 老木を突き抜く弾痕沖縄忌        佳楓
特選 老木を貫いた弾痕は作者の心をも打ち抜いた悪夢か、沖縄戦への鎮魂句(荒 一葉)
特選 悲惨な沖縄戦今のウクライナ胸が締めつけられますね。早く戦争のない平和な日が来る事を心より願います。本当にいい俳句だと思います。(ケン)
入選 弾痕が悲惨な沖縄戦の実際を物語っているのですね。そして今はウクライナで。(蒼鳩 薫)

2点句 黙黙と小屋で作業や谷若葉        冬青
特選 山間の小屋で静かに作業に耽っている様子、そして若葉を抜ける風の音だけが聞こえて来るような別世界を思わせます。(康子)
入選 ビビサン

2点句 高らかに文武両道樟若葉         燕太
特選 百代
入選 冬青

2点句 黒揚羽影を落としぬ石畳       垣内孝雄
入選 真上の太陽で黒揚羽の影がくっきり石畳に映る。(みな子)
入選 百代

1点句 2cmの隙間に生きるアマリリス     こう子
入選 豪奢なアマリリスがたった二センチの隙間に咲いている不思議。(みな子)

1点句 鯉のぼり戦ぐ尾びれの川近く    すーちゃん
入選 冬青

1点句 遺構なる我が島畑に梅たわわ       百代
入選 梅の実がたわわに実る島畑の明るさを感じる。遺構が何の後かはわからないが、何もなくて明るい感じがする。(みな子)

1点句 紫の夏袴透く禰宜の声         こう子
特選 「透く」が上下に働いていて、夏袴の紫色をひかりが通り抜ける涼し気な様子と、同時に禰宜さんの声の澄んでよく通る感じとが巧みに表されているように思う。その場の清浄な雰囲気も伝わって来る。(すーちゃん)

1点句 あぢさゐの「自粛解除」の彩を買ふ     佳楓
入選 ケン

1点句 初めてのトウシューズの子花楓    蒼鳩 薫
入選 冬青

1点句 茅の穂揃ひて靡き憂いなし        冬青
入選 百代

1点句 夜の更けて遠田の蛙声(あせい)走り梅雨   彰
特選 子どもの頃の情景があざやかに浮かんできました。蛙の声のことを「あせい」と読むのですね。勉強になりました。(蒼鳩 薫)

1点句 兄恋し箱根空木の花のころ       こう子
入選 彰

1点句 そこはかと門扉をとざす夏館     垣内孝雄
入選 ビビサン

1点句 一万歩超えて岸和田五月晴れ      みな子
入選 彰

1点句 夏浅しかりゆしウェアの色選ぶ      帰心
入選 こう子

1点句 兄傘寿弟は喜寿蝉生(うま)る     荒 一葉
入選 すーちゃん

〈俳句気まぐれエッセイ⑮ 俳句甲子園 〉    今泉 かの子
去る六月十一日、俳句甲子園の名古屋大会が行われた。以前は静岡からの参戦もあったが、今年は、県内のみで三年ぶりの開催であった。
ご存知の方もみえると思うが、試合運びについての説明を少々。大会は各チーム一対一の総当り戦。試合は先鋒、中堅、大将それぞれ一句ずつ兼題を入れて詠んだ俳句で勝負に挑む。言葉選びや意図等についてディベート。審査員五名はそのやりとりも含め点数をつけ、紅白どちらかの旗を挙げる。その数で勝敗が決まる、という流れだ。
と、挙げる旗は紅白であるが、白黒、勝ち負けがはっきりする場。そこは一種、戦場のような体を成すときがある。今年はそうでもなかったが、悔しさをあらわにするグループもいれば、感極まって涙する子もいた。審査員も同様、それなりの覚悟をもって旗をあげる。といっても、今まで自分が関わってきた句会での選句と似た基準である。審査員の所属結社はそれぞれ。よって自分だけ違う色の旗を挙げることも当然ある。その違いは、逆に作品を広く受け止める大きさにもなっているのだろうと思う。審査の講評は、好き嫌いではなく、客観的判断による言葉を心がける。大会は教育的配慮が必要な場でもある。
いわゆるベテラン校は俳句の完成度が高いのはもちろん、ディベートも巧みである。句の場面の確認、よい点への共感、そして巧みな切り込み。先輩から受け継いだ土台の力をもっている。が、今年は四月に発足、わずか二か月ほどで本大会への切符を手にしたチームがあった。本人達の努力に加え、幸運の女神もほほ笑んだ。審査した側も若干驚いたが、それは、当事者も同じだったかもしれない。
最後の審査員挨拶の際、以前の回で詠まれた最優秀句にふれた。〈山頂に流星触れたのだろうか〉〈湧き水は生きてゐる水桃洗ふ〉この瑞々しい感覚。両句とも幸田高校の生徒の作品である。閉会後、司会をしていた女の子が寄ってきて「湧き水の句を作ったのは私です。」と告白するように云った。八年前の作品である。まさか本人がここにいるとは。驚きであった。
帰りしな、「どうも、お久しぶりです。」とスタッフの一人から声をかけられた。マスクをしていてよく分からなかったが、目元に覚えがあった。青年は浜松からの参加で、その後もOBとして顔を出していた。以前と変わらぬ明るさが、何だか懐かしく思われた。
たくさんの俳句を前にさすがに疲れはしたが、今年は若者を通して、俳句のもたらす縁を身近に感じた。コロナによってしばし遠ざけられていたせいか、格別、佳い一日だったように思われた。

涼しさはマスクの声に笑ふ目に         かの子

 



第23回若竹ウェブ句会(2022年5月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)
今回も、夏雲システムのエラー発生が修復されていない為、以前と若干違う編集結果になっています。

7点句 おほかたは老化と合点花は葉に    荒 一葉
特選 いろんな面での不都合も、年齢の所為とは身も蓋もない結論だが大方はそれで得心がゆく。花は葉に、否応なく時間は経つ。(燕太)
特選 そうですよね。今年、傘寿の私にはドキリとさせられるお句でした。私もついつい都合が悪いことは、年のせいにして自分を甘やかしております。合点の特選句です。有り難うございました。(佳楓)
入選 老いを素直に受け入れている穏やかな心を、思わせます。時の移ろいを感じさせる季語が、とても良い。(康子)
入選 帰心・彰・百代・ケン

6点句 天井に日の斑遊ばす代田かな    すーちゃん
特選 田植準備のできた様子が「日の斑遊ばす」の措辞で確かな描写になった(荒 一葉)
特選 太陽の光が代田に反射して、天井でいくつも揺らめいているような楽しい句だと思います。(康子)
特選 農家の家の間近に代田があるのでしょう。開け放った部屋の天井に代田の光を反射して揺れているのが懐かしく美しいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 家の隣の代田の照り返しが天井に日の斑を遊ばせる。涼やかな景である。(みな子)
入選 私も、代田や植田の句を沢山詠んで来ましたが、いつも、風、とか彩とかの景色ばかりで、(天井に日の斑ばす) 迄は詠めませんでした。素晴らしいお句、有り難うございました。(佳楓)
入選 垣内孝雄

6点句 ベンヂンの小瓶はほのと昭和の日  すーちゃん
特選 昔、着物を脱いだら、すぐにベンジンを布に湿して、襟などに付いた、見えるか見えない汚れを押さえた記憶が、ツンとした匂いと共に蘇りました。(百代)
特選 若い時を過ごした戦後の昭和という時代。決して平和ボケであったとは思わない。(彰)
入選 帰心・ビビサン・燕太・こう子

5点句 バス停に白が溢るる更衣         燕太
特選 バスを待つ高校生たちのフレッシュな夏の制服姿が、「白が溢るる」の措辞から鮮やかに浮かんできます。(帰心)
入選 中七の表現が、夏服に替わった様子をとても鮮やかにしてます。(康子)
入選 彰・冬青・こう子

4点句 諸子焼く比良と比叡を仰ぎ見て    垣内孝雄
入選 琵琶湖の淡水魚、美味い諸子の佃煮を食べたことがあります。焼きながら食べる諸子は素朴で風情があっていいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 彰・すーちゃん・佳楓

3点句 麦埃あびて信濃の道祖神         佳楓
入選 麦打ちの「景」が浮かびます。(垣内孝雄)
入選 麦埃を被っても、村人の営みに微笑んでいるような景ですね。(康子)
入選 帰心

3点句 廃屋や勢い余る松の芯          冬青
特選 これも、いまの日本の現実かなあと思います。空き家問題が取り沙汰されて久しいですが、これといった解決策も見いだせぬまま、松の芯だけが、まっすぐ、まっすぐ天を突く。切り取り方が見事です。(ビビサン)
入選 帰心・荒 一葉

3点句 修羅場めく厨よ蠅の一匹に        康子
入選 修羅場とはまた大袈裟だが、俳句はそのぐらい大袈裟な方がよいのかも。(燕太)
入選 特選の次に秀逸句と思いました。その場の景色がぅわ~っと浮かびました。(佳楓)
入選 ケン

3点句 看板のBの窪みに雀の子         康子
特選 看板を見ると、ちょうどBの字の凹みに雀の子がいる。Bの窪みイコール雀の子というのが良い。(みな子)
入選 燕太・百代

2点句 樟若葉日露戰役從軍碑           彰
特選 昔、ロシアとの戦がありました。(垣内孝雄)
入選 ビビサン

2点句 久に会ふ短髪の娘や聖五月        帰心
入選 髪を切った娘さん、夏らしくて良いですね。(垣内孝雄)
入選 娘さんの若き溌剌とした短髪の姿が聖五月に合っている。(みな子)

2点句 生も死も同じ数だけ松落葉      荒 一葉
入選 ビビサン・こう子

2点句 ペディキュアの色は水色夏浅し      百代
入選 荒 一葉・こう子

2点句 大湖にうかぶ小島や遠霞       垣内孝雄
入選 琵琶湖の風景の竹生島を想像しました。のどかで静かな琵琶湖が美しいですね。(蒼鳩 薫)
入選 彰

2点句 夏雲や翅あるもののメタリック    蒼鳩 薫
特選 青空に湧き立つくっきりとした夏の雲と硬質なものとの取り合せ。昆虫の薄い翅が光に輝いて金属のきらめきを放っているようにも、飛行機の銀色の翼が返すメタリックな光のようにも。シャープさが際立つ一句。(すーちゃん)
入選 荒 一葉

2点句 解数のごとく薇(ぜんまい)開きけり  蒼鳩 薫
入選 百代・冬青

2点句 海凪ぎてご赦免花の笑む岬        佳楓
入選 百代・ケン

1点句 豆飯の小を頼んで焼き鯖で       みな子
入選 すーちゃん

1点句 潮満ち来若葉の風に夕月夜(ゆふづくよ)   彰
入選 取り合わせに共感。(垣内孝雄)

1点句 芹の水ひかりの綾となりにけり    垣内孝雄
入選 やわらかな芹の薄緑と川の流れが相まって美しいなと思いました。(蒼鳩 薫)

1点句 雄渾の「燕の巣有り」秘境駅        百代
入選 公共の建物などでの燕の営巣は迷惑だが、相手が燕では寛大に処するほかない。注意を促す張り紙の字が雄渾とは笑わせる。(燕太)

1点句 尺蠖奔る祖国復帰闘争碑         佳楓
特選 早いものですね。沖縄返還から五十年。地道が一番ですね。しゃくとり虫のように。(ケン)

1点句 啓蟄や轟く空は早三月          ケン
入選 早くウクライナの空が美しく晴れて、壮大な向日葵畑や、緑の麦畑を見たいものです。(佳楓)

1点句 山羊小屋に羊も居りて草刈機      こう子
入選 冬青

1点句 ライオンの欠伸うつりて風光る      百代
入選 いかにも長閑な明るさが感じられる。(みな子)

1点句 ラジオからアバの特集柿若葉       帰心
入選 荒 一葉

1点句 夏めくやクルスきらりと胸の谷    荒 一葉
特選 何とも夏らしい句だと思いました。Tシャツやタンクトップを着る季節になり、胸や二の腕も露わに…。きらりと光ったクルスが眩しく見えてきそうです。(こう子)

1点句 摘果する枇杷の実三つまでと決め    こう子
入選 受粉したそのままだと、小粒のまま育って美味くありませんね。三つ残して摘果すると理解しました。大粒で甘い枇杷の実ができそうですね。(蒼鳩 薫)

1点句 蝌蚪に足恥づかしながら尾をつけて    燕太
特選 おたまじゃくしがカエルに変態する時の様子がユーモラスに描写されている。(冬青)

1点句 踏まれても摘まれても菫はすみれ   蒼鳩 薫
入選 すーちゃん

1点句 行く春の廃鶏すでに瞬かず        燕太
入選 すーちゃん

1点句 川中に咲くは万朶の針槐(はりえんじゅ) みな子
入選 中洲にも、おそらくは川岸にも、白い針槐の花が見渡す限り続く、そんな美しい景が目に浮かびます。(康子)

1点句 火祭りの禊の浜の汐干かな        帰心
入選 ビビサン

1点句 落葉から松の芽吹く矢作(やはぎ)の分水嶺  彰
入選 冬青

1点句 刺ある枝ゆるりと巻きて花あけび     冬青
入選 花あけびの蔓の様子がよくわかる。(みな子)

 

〈俳句気まぐれエッセイ⑭  危険 〉   今泉 かの子
二か月ほど前になるが、初めて救急車に乗った。立派な文化施設の一室、句会終了後のことである。椅子から立ち上がり一歩踏み出そうとした瞬間、体が飛んだ。固定されていたホワイトボードの脚につまずいただけなのだが、なんせ慌てていた。会終了後の予定が迫っているわ、即返信が必要なメールが来るわ。スマホを片手に、もう一方の手には大きなバッグを抱えて、一瞬宙を飛んだ。「ああ…」と思ったら、いきなりガツン。キャビネットの平面に頭を思いっきり打ちつけた。
幸い居合わせたしっかり者の句友が、傷口を手で圧迫。うまく止血されたものの、それなりの量の出血があったのではないかと思う。私本人は、もう迷惑千万なことを引き起こしてしまったので、ずっと「どうもすみません、ホント申し訳ないです。」などと言い続けていた。
救急隊員が到着し、「今まで入院したことは?」「お産のときです。」「コロナの接種は?」などの確認にも普通に受け答えしていたので、ストレッチャーに乗らず、普通に歩いて行った。救急車に乗る時になって、ストレッチャーに乗らないと、救急車に乗れないとわかり、乗車。「付き添いの方は?」と言われたときに、すぐさま「私が」と手をあげてくれた友も同乗、直ぐそばの病院へ向かった。
病院で処置を待つ間、一番気にかかっていたことは、吉野へ行けるだろうか、ということだった。二週間後の四月、吉野には、加古宗也主宰の第三基目の句碑開きが予定されていた。先生が言うところの「びっくり仰天」の驚くべき展開で、句碑建立に至ったそうである。その詳細はここでは省くが、吉野は元々憧れの聖地。何としても行きたい所である。付き添ってくれた友達は、あっさり「大丈夫でしょ。一緒に行こ。」といってくれた。
今のところ、異常もなく、平穏無事に過ぎているが、全くどこに危険が潜んでいるかわからない。

深吉野のさくら見てきて眠られず        かの子

 

 



第22回若竹ウェブ句会(2022年4月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)
今回も、まだ夏雲システムのエラー発生が修復されてないため、前々回と若干違う編集結果になっています。

6点句 食む蚕(こ)無き故郷扶桑の桑若葉     百代
特選  今は、桑若葉だけが元気な故郷、作者は遠い昔に思いを馳せているのでしょう。桑の葉を食べる蚕がいない、その音もない。桑若葉が引き立ちます。それはとても、淋しいことだけど。(ビビサン)
入選 人間の営みと自然の営みのズレの哀歌(荒 一葉)
入選 毎年、桑の若葉は茂るのに、もうお蚕様を飼う家が無いなんて…。なんだか切ない現実ですね。(康子)
入選 こちらでも桑畑はなくなったものの土手の隅などに桑の木は見られます。天井裏部屋のようなところでの養蚕も記憶の隅に。(彰)
入選 蒼鳩 薫・冬青

5点句 継ぐ子らのなき峡の田や山桜     荒 一葉
特選 大きな大きな山桜を想像します。過疎化の村の中にあっても、春が来れば毎年大きくなっていく山桜。綺麗に律儀に咲いているのが愛おしいですね。(こう子)
入選 蒼鳩 薫・帰心・冬青・彰

5点句 水郷の風を自在につばくらめ       佳楓
特選 広い水郷地帯を、羽根をたわませ、水平に、急回転も自由自在に飛び回る燕の姿がいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
特選 燕が湖の風を自在に斬るのが目に浮かびますね。(ケン)
入選 「風を自在に」に修辞の良さを思う。(垣内孝雄)
入選 燕の自由に飛ぶ様子がわかる。(みな子)
入選 ビビサン

4点句 戦なき空の深さや告天使         ケン
特選 空高く告天使が飛ぶ平和な世であって欲しい(荒 一葉)
入選 今のウクライナ、ロシア戦を思うに、毎日胸が痛みます。ウクライナの空は低く焦げ臭く、鳥の囀りさえ無いことでしょう‼️早く平和が戻ることを祈るばかりです。(佳楓)
入選 蒼鳩 薫・ビビサン

3点句 この人も右耳遠し春の空         康子
特選 「この人」も私も耳に不自由はあるけれど、お互い元気でいようね、という気持ちが「春の空」という明るい季語に込められています。元気がもらえる句です。(帰心)
特選 年老いて、認知機能が少しずつ衰えて行くが、そんな不安の中に他の人に類似点を見つけた時のつかの間感情を上手く表現されている。(冬青)
入選 こう子

3点句 街道に沿うて伊良湖の花菜風     蒼鳩 薫
特選 季語の「花菜風」が美しく、伊良湖の情景が鮮やかに目に浮かびます。(百代)
入選 きれいな句ですね。(垣内孝雄)
入選 彰

3点句 荒磯の波をかぶりて若布刈      蒼鳩 薫
入選 波しぶきを浴びて、ダイナミックに若布刈りをする様子が浮かびます。潮の香りもしてきます。(康子)
入選 ビビサン・こう子

3点句 近江富士借景にして魞挿せり       佳楓
入選 雄大な琵琶湖の景ですね。見たことはありませんが、こうした伝統的な漁法の長く続きますように。(康子)
入選 百代・ケン

3点句 人間はみんな嘘つき花は散る     ビビサン
特選 「嘘つき」「散る」と負のイメージの言葉を使いながら、風に向かって踏ん張る姿勢が感じられる。(彰)
入選 嘘つきな人間にも散る花にも感じる無常(荒 一葉)
入選 ズバリ詠まれましたね~!本当にどきり!!とさせられました。(佳楓)

3点句 口あいて見し破(や)れ寺の花ふぶき    帰心
入選 思わず口をぽかんとあけて見惚れてている美しい花吹雪がわかる。(みな子)
入選 呆然と見とれている作者の姿が浮かびます。手入れされてないお寺を背景に花ふぶきが際立ちます。(康子)
入選 冬青

3点句 新調は半衿のみの花衣        ビビサン
特選 「半衿」のおしゃれは和服の極意。(垣内孝雄)
特選 コロナ下のため控え目にというお気持ちでしょうか。「花衣」という雅びな季語に惹かれました。(康子)
入選 花衣は変わり映えしないものでも、心意気としてせめて半襟は新しくして花見に出かけたいと私も思う。(みな子)

3点句 ふらここや捻れて揺れるアイデンティティ 百代
特選 「アイデンティティー」なる言葉を初めて知りました。
調べました。哲学的な難しい説明は出来かねますが、作者自身の自己の存在の揺れ、迷い、とふらここの揺れや捻れに、ご自身を重ねて詠まれたのに、同感!(佳楓)
入選 「捩れて揺れる」が言い得て妙(荒 一葉)
入選 ケン

2点句 大桜寺門の低き女寺          こう子
入選 「寺門の低き」に惹かれる。(垣内孝雄)
入選 百代

2点句 ままごとのスープにうかぶねぎぼうず  こう子
入選 兎に角楽しい。(彰)
入選 帰心

2点句 波に浮く島の桜の色薄し          彰
入選 百代・帰心

2点句 てふてふの翅閉じゐるや石の上    垣内孝雄
入選 百代・ケン

2点句 幾星霜の仮設住宅燕来る         ケン
入選 あの東日本大震災から十年が過ぎたと言うのに、未だに仮設住宅に住まわれておられる方がたのご心痛に、思いが馳せます。「燕来る」の季語がなんとも嬉しい限りです。(佳楓)
入選 こう子

2点句 玄関に分葱の束の置き土産        冬青
入選 多分、黙ってそっと置いて行かれる程の、お付き合いなのでしょうね。羨ましい限りですねぇ。(佳楓)
入選 蒼鳩 薫

2点句 春の雲マネキンの目は動かない    ビビサン
入選 帰心・こう子

1点句 清明や歯の無き父の笑顔皺        帰心
入選 皺多き温和な笑顔の父が見える(荒 一葉)

1点句 桃の花小学校の裏通り        垣内孝雄
入選 ビビサン

1点句 黒髪に桜花五ひらの髪飾り      蒼鳩 薫
特選 花びら五つの髪飾りが、どんな豪華なものにも負けないものだと思う。髪と花びらの色のコントラストも美しい。(みな子)

1点句 櫓の音の軋むがほどに葭青む       佳楓
入選 ケン

1点句 春の地震(なゐ)呆(ほう)け気味なる吾(あ)へ平手      帰心
入選 冬青

1点句 千の風吹いて散りけり万の花     荒 一葉
入選 「千の風」と「万の花」の織り成す世界。(垣内孝雄)

1点句 放棄地を紫に染めほとけのざ       冬青
入選 荒れた放棄地もほとけのざのお陰で紫色になったのが慰めとなる。(みな子)

〈俳句気まぐれエッセイ⑬ 草原の民 〉   今泉 かの子
俳人協会の三月のカレンダーは〈たがやして耕して子を抱いて寝る 寿子〉であった。キリトリ線で切り離しながら、何かしみじみと感じた。鬼城の〈生きかはり死にかはりして打つ田かな〉も思い浮かんだ。鍬をふるい地を耕して、命をつないできた農耕の歴史。そのことを一種、美徳のように思ってきたが、それは、風土に培われてきたもので、全く違う価値観もあったと、今さらながら気づかされたことがあった。
はるかな古代、草原は人が生存しにくいところだった。一望の平地は狩猟が難しく、木の実も採れない。そこで、草原に群生する羊とともに人も移動することにした。草原に生きる民にとって、生えっぱなしの草があるところが生きてゆく場所。自然に境などないように、草原の民は、自然とともに生きてきた。司馬遼太郎の著書によれば、遊牧民にとって、草原は土壌を風から守る生きた皮であり、草の根が土壌をひきしめている。その土を農耕の民は鍬で粉砕、ひっくり返してしまう。そしてひとたび表土が吹き飛ばされれば、二度と草原は戻らないという。つまり、遊牧民にとって羊が食む草は、必要な大地の恵。中国とモンゴルも、大地をめぐる草原と農耕の攻防の歴史だったようだ。
そもそも日本は、大草原などない山国。今は耕作放棄地が広がり、あまりピンとこないかもしれないが、それでも、空と草原だけの茫洋たる世界を想像すると、晴れ晴れとした気分になる。移動が必定の暮らしは、物も荷物になるから多くは蓄えない。それは自ずと必要以上に、物を欲しない生き方である。風土による民族の歴史の違いはあるけれど、その欲のない生き方は憧れである。
田水張る里に轟くバイク音         かの子

 



第21回若竹ウェブ句会(2022年3月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)
今回も、まだ夏雲システムのエラー発生が修復されてないため、前々回と若干違う編集結果になっています。

9点 啓蟄の花屋に水の匂ひして            佳楓
特選 「水の匂ひ」の措辞が秀逸です。啓蟄は、冬ごもりしていた虫だけではなく、花屋の花々も、さらに、その花々の命を支える水も生き生きとしてくる時なのでしょう。(帰心)
特選 花屋の店先に感じたのは、花の匂いではなく、水の匂い。あえかに匂う水を感受した作者、その繊細な感覚を通して、仲春の気息が伝わってきます。(すーちゃん)
特選 「水の匂ひ」が感じられる時候となりました。(垣内孝雄)
入選 花だけでなく、水の匂いまで…。感性の鋭い句ですね。(康子)
入選 啓蟄の日というので、花屋さんの水の匂いをことさら感じた。(みな子)
入選 蒼鳩 薫  こう子  荒 一葉  ビビサン

7点 まんさくの花の一途や女寺           こう子
入選 帰心 蒼鳩 薫 百代 彰 冬青 荒 一葉 ビビサン

5点 鳴き声はパステルカラー春の鳥        蒼鳩 薫
特選 春になれば さまざまな鳥たちが囀り出します。その声を パステルカラーと表現したところに、この句の核があると思いました。巧みな感じがいいと思い特選にしました。(ビビサン)
入選 春らしさを鳥の声に感じられる。(みな子)
入選 こう子 冬青 佳楓

4点 鶴引きて風いろ変はる淡海かな          佳楓
入選 中七が味わい深い。(垣内孝雄)
入選 すーちゃん 冬青 ケン

3点 啓蟄や下校の子らの足遅し            百代
特選 子供の目は鋭くて、変わったこと、目新しいことがあれば、すぐに捕らえて、足が止まります。啓蟄の頃ともなれば、そこここに春の息吹きを捕らえて、足が遅くなる様子が、上手く描かれています。(冬青)
入選 取り合わせの面白さ。(垣内孝雄)
入選 子らの興味を引くものが出てくる頃、自然に道草もするのでしょう。(康子)

3点 四番まで歌ってからよ雛ケーキ         こう子
特選 「うれしいひなまつり」でしょうか。幼子が一生懸命歌っている様子がほほえましい。(康子)
入選 帰心 ケン

3点 如月の光の中へ首すくめ           蒼鳩 薫
特選 旧暦二月(如月・衣更着)は日脚は伸びるがまだまだ、特に今年の余寒には首をすくめるという実感。(彰)
特選 二月の光はすでに春の日に、まだ寒さは厳しいものがある。寒さに首をすくめながらも光の中に歩み入る。(みな子)
入選 「首すくめ」に窺える如月。(垣内孝雄)

3点 影もなき荒れし番屋や鰊群来           ケン
入選 さびれた番屋と群なす鰊の対比が良いと思う。また、鰊が一斉に産卵し、海が放卵放精により乳白色に染まる様子が壮観です。(康子)
入選 蒼鳩 薫 佳楓

3点 立つてよいしよ座つてよいしよ永き日よ      康子
特選 「よ」のリズムの軽快さ、平凡な日常の描写が的確。(荒 一葉)
入選 全く私と同じ生活を詠んで下さいました。立つたび座るたびに、掛け声が必ず出てしまうのです。「永き日」の季語が上手く効いていると思います。 妣にそっくりになって来るこの頃です。(佳楓)
入選 つくづく身にしみますね。季語もピッタリだと思います。(ケン)

3点 湖風に角組む蘆の気負ひかな           佳楓
入選 早春の角ぐむ蘆の感じがいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 記憶の片隅にこびりついた荘八の「徳川家康 葦かびの巻」が、俳句を知り「葦牙(あしかび)」、今また「角組む蘆」を知るわが大河。(彰)
入選 百代

3点 春愁や微かに険のあるメール           帰心
特選 ほんの些細な心のひっかかりを「微かな険」と上手く表現されていると思いました。また、春になって楽しいはずなのにその小さな「険」のせいで素直に春を満喫出来ないでいる様子と読ませて頂きました。経験ありです。(こう子)
入選 冬青 荒 一葉

2点 万年も生くるは御免亀の鳴く         荒 一葉
入選 すーちゃん ビビサン

2点 写メールにピースサインの初遍路         百代
入選 お若い方の「遍路」も良いものですね。(垣内孝雄)
入選 明るい句ですね。これからの長い道中を応援したくなります。(康子)

2点 アクセント無しで呼びたき菫かな          彰
入選 何も強調することのないノーアクセントで呼びたいほどの、小さなそして確かな存在を菫の花に感じる。(みな子)
入選 すーちゃん

2点 回廊に日のうす暗き白牡丹          垣内孝雄
特選 百代
入選 ケン

2点 長き名をやつと覚えて二月尽           康子
入選 帰心 ビビサン

2点 星溶かす核を見据える春の鷲           ケン
入選 毎日の、胸痛むウクライナ、ロシア戦に、この頃ついに、老いの胸が熱くなり、涙が出て仕方ありません。核のボタンを春の鷲が鋭い眼でじっと睨んでいます。秀逸句と思います。(佳楓)
入選 荒 一葉

2点 鳥交る定家葛の長き蔓              帰心
特選 鳥の恋と定家と式子内親王との恋のいわれを持つ定家葛との取り合わせが素晴らしいと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 「定家葛の花」は仲夏の季語とする記もあるが、長き蔓にこそ定家の内親王への呪縛を象徴するもので「鳥交る」が生きてくるのでしょう。(彰)

1点 国と国縺れに縺れ春寒し           ビビサン
入選 帰心

1点 芋植ゑて元肥ほどこす借り畑         垣内孝雄
入選 すーちゃん

1点 海賊の人形を出す春の店          すーちゃん
入選 百代

1点 釣り石に願ふ親子や道真忌            ケン
入選 百代

1点 幹に角突き立てたるか夜の鹿        すーちゃん
入選 彰

1点 風になるために雲雀は揚がりけり       ビビサン
入選 佳楓

1点 盆梅の人の丈ほど艶やかに           みな子
入選 こう子

1点 微睡(まどろ)みてジムノペディや春の風邪  蒼鳩 薫
入選 静かな曲が、春風邪にはぴったりなのだろう。(みな子)

1点 見て飽きずなほ見てをりぬ桜かな       荒 一葉
入選 ケン

 

〈俳句気まぐれエッセイ⑫ 猫事情 〉  今泉 かの子
私の住む名古屋の家の辺りには、二,三匹の地域猫がいるようだ。時折、庭で姿をみかける。ご近所に篤志家がいて、きちんと去勢、避妊をしているらしい。野良猫と区別するため、ハート型の耳である。
また、奥三河の山の家の界隈でも、地域猫として生きる猫がいる。こちらも田畑を自由に歩き、好きな所で寝る。我が家を含め、猫好きな家に顔を出せば、食料は確保されている。時にはネズミや小鳥をハンティングする野性も具わっている、たくましい猫だ。
実は、地域猫の現状は、地域によっていろいろ。賛否が分かれる。人の多い街なかでは、弊害も出ていると聞いた。が、過疎の地では、共通話題としてコミュニケーションに、ひと役買っている。
以前いた雄のシロ(白いので勝手にそう呼んでいた)は、体の大きいボス猫だった。通るルートが決まっているようで、近所の人が「どこそこでみた」という情報を集めると、意外にそのテリトリーの広いことがわかり、感心?した。また、向こうっ気が強いのか、三、四日顔を出さないと思ったら、ひどい傷を負って登場したりした。腫れて片目がつぶれかけていたこともあった。足の筋肉がえぐれるほどの傷で、まともに足がつけないこともあった。山の師匠が云うには、猫どうしの喧嘩ではなく、ハクビシン等、山のけものと戦ったんだろうということだった。戦わずに、逃げることだってできたのではないかと内心思うが、シロの矜持か、譲れない事情があったのかもしれない。少し毛並みがやつれてきたかなと思っていたら、あっけなく、交通事故で死んでしまった。
その後、ふさふさ毛のゾロ(怪傑ゾロ似)が、代わって現れるようになった。そこへ、また新しい白茶の猫がやってきたが、ゾロがいるとこちらに近寄ることはなかった。
あるとき、名古屋から久々に山の家に来てみると、入口のウッドデッキに、赤黒いシミが着いていた。そのとき以来、ゾロは姿を現すことはなく、白茶が頻繁に顔を見せるようになった。ここできっと二匹のバトルが繰り広げられたのだろう。想像するだに、おそろしい。が、それは猫の世界のこと。自然と隣り合わせで生きる世界の、普通のできことなのだろう、と思う。
逆に、家猫として室内で暮らす猫はいたって平和で安全である。寿命も長い。自由と野性を制限された代わりに、キュートな存在としてヒトの寵愛を受け、一生を終える。
どちらが幸せか、わからない。それは比べられないと思う。が、ヒトに保護され生きる猫も、ヒトのあずかり知らぬ世界で生きる猫も、人と同様、命は一つ。かけがえのない生を生きている。
芥もろとも雪解川きらめける       かの子

 



第20回若竹ウェブ句会(2022年2月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)
今回は、夏雲システムにエラーが発生したため、前回と若干違う編集結果になっています。

6点 楢の木に菌打つ音や春寒し         冬青
特選 林の中か、あるいは農家の庭先か、椎茸の菌を打つ音と思いました。木の槌で打つのでしょうか。手袋を通しても早春の寒さで指が悴んでくるような感じを想像しました。(蒼鳩 薫)
特選 コメントなし(百代)
入選 椎茸を栽培は菌を打つことから。(垣内孝雄)
入選 こう子 すーちゃん 佳楓

5点 雪もよひ貨物列車の長き音          康子
入選 子どもの頃、東海道線の貨物列車の貨車を数えて遊びました。線路のつなぎ目を車輪が過ぎるとき、ガタンゴトンと音がしますが、それを数えても貨車の長さが分かりますね。季語の「雪もよひ」がいいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 長き音とは「デデン デデン・・・・」と列車編成が長いと読みました。記憶の中の機関車は顔にいっぱい雪をつけて。(彰)
入選 百代  こう子 すーちゃん

5点  冬日陰直葬といふ別れをす         こう子
特選 「直葬」の醸し出す別れ。(垣内孝雄)
特選 今のコロナ禍のお別れだからでしょうか。旅立つ人に、この世の最後の言葉を掛けることさえ出来ないとは、何とも、哀しすぎるお別れですよね。ご心中お察し申し上げます。(佳楓)
入選 ちょっとさみしいけど今の世ですね。(ケン)
入選  帰心  すーちゃん

4点  大寒やホームに啜るかけうどん       蒼鳩 薫
入選 「駅」のそば・うどんの美味、なおさら大寒には。(垣内孝雄)
入選 鼻の頭を赤くして、立ち食いしてる様子が目に浮かびます。寒い時は熱いものが何よりですね。(康子)
入選 百代  こう子

4点 投稿のはがきは春の切手貼る         彰
特選 「春の切手」の措辞に、春の到来を喜ぶ作者の弾んだ心を感じます。(帰心)
特選 投稿先は、新聞それとも雑誌かな。ひょっとして俳句コーナーかな。季語に合わせて、春の風景か花の切手を選んだのかな。楽しく明るい句です。(康子)
入選  こう子  冬青

3点 冬の山道きりきりと竹のこゑ        帰心
特選 竹藪下を行けば上空の寒い風に吹かれ、竹は「きりきり」と軋む。里山歩きでそんな声を聞く。(彰)
入選  すーちゃん ビビサン

3点  麦を踏む千歩至れば詩をひとつ       蒼鳩 薫
特選  千歩至れば詩が一つ生まれるのは、とてもいいです。(みな子)
入選  佳楓 ビビサン

3点 老木の天地ふるはせ蘖ゆる           佳楓
特選 老木は桜でしょうかね。コロナ禍のなか小さな芽が天地をふるわす力強い命ですね、何か気持ちが晴ればれします。ほんとにいい句ですね、素晴らしいと思います。ありがとうございます。私もガンバリマス。(ケン)
入選 中七の修辞に惹かれる。(垣内孝雄)
入選 老木のひこばえの偉大さを思う。(みな子)

3点  節分会放物線は幾重にも            百代
入選 豆まきの表現がおもしろい。大勢が豆をまく様子が伝わってきます。(康子)
入選 帰心 佳楓

3点  豆まきの済みて柔和な鬼の面         こう子
特選 冬を締め括る大事な行事、その行事が済み、あの鬼の面ですら、柔和になったと感じる作者。明日からのことを思い、安堵されているのでしょう。暦の上の春だとわかっていても、わずかでも春へ進んだ心理描写が見事。(ビビサン)
入選  鬼の面を柔和に感じるのは豆まきの後。意外と鬼の面の表情は柔らかい感じがある。(みな子)
入選 百代

2点  しら梅や京の老舗の匂玉           垣内孝雄
入選 しら梅と匂玉の取り合わせが古都京の風情、老舗の風情に合っていていいなと思いました。(蒼鳩 薫)
入選 白い梅の清らかさと芳香、花の丸さも、匂玉に重なるように思います。(康子)

2点  遠山の御嶽(おんたけ)白し土手青む        彰
特選 遠近と色の対比が見事に一句の中に織り込まれている。(冬青)
入選 私もほぼ毎日、御嶽を見ています。遠くに御嶽の冠雪を見ながらの散歩。足元の小径の草の青みゆく色合い。遠近と色の取り合わせがいいなと思いました。(蒼鳩 薫)

2点  名所まで足をのばして梅二月          ビビサン
入選 「梅二月」が活きた句。(垣内孝雄)
入選  ケン

2点  春立つや濃き墨象(ぼくしょう)の潔く     みな子
特選 「墨象」に篠田桃紅さんを思いました。白い余白に引き立てられた墨の色、形。万物の始動する季節への湧き立つような気持ちとともに、新たな気概も感じます。(すーちゃん)
入選  百代

2点 疫病禍の果て無き闇へ豆打たな           佳楓
入選 帰心 ケン

2点  母編むや父へ遺すと毛糸帽           こう子
入選 父のために毛糸帽を編んでいる母。遺すということの尊さを思う。(みな子)
入選 ビビサン

2点 遠山の襞てらてらと魚は氷に           佳楓
入選 ケン ビビサン

2点 空壕に菜の花咲いて一月尽           みな子
入選 冬青 彰

2点 おしくらまんぢゆうシヤンプーはエメロン     帰心
特選 すごく面白いなと思いました。一読した時は、えっどういうこと?と思いましたが、何回も読むうちに私にもシャンプーの香りがしてきました。エメロンも懐かしかったです。(こう子)
入選 ぎゅうぎゅう押し合ってる中を、ふとエメロンシャンプーの香りがした。わが家と同じシャンプーを使ってるのは、だあれ?(康子)

1点 飽きるほどオリンピック観て春炬燵      ビビサン
入選 冬青

1点 恋猫の尻尾ふりふり塀伝ひ          蒼鳩 薫
入選 彰

1点 白川のひかりやはらぐ京の春         垣内孝雄
入選 半世紀も前こと北白川○○町に住むとふ知人ゐたり。時流れ変はらぬ古都、春は巡り来。(彰)

1点 雪の橋渡る恐怖や一休忌             ケン
入選 佳楓

1点 掘り炬燵ここに有つたかダイヤの9        帰心
入選 冬青

1点 梅便りナイトキャップに古梅酒          百代
入選  梅の便りを古い梅酒を寝酒に飲みながら読んでいる。春の夜を感じる。(みな子)

1点 お年酒や卒寿の母の恋もよう           ケン
入選 帰心

1点 大寒の石磴凛として高し             康子

入選 どこの石燈でしょうか。大寒とゆるぎない石の燈が響き合っていいなと思いました。私は渡し場の石燈を想像しました。昔は灯台の役目も負っていたかもしれないと思いました。(蒼鳩 薫)
※石磴は石の段、または石のある坂路。(広辞苑より)談話室でのやりとりを通して、作者、選者ともに了解済み。

 

〈俳句気まぐれエッセイ⑪ 年賀状 〉   今泉 かの子
今年もまた、年賀状は少なくなった。今年限りで卒業、と記されている賀状もあり、次第に枚数は減ってきている。それも時代の流れ、特にさびしいというほどではないが、その中にどうしても外せない大事な一枚がある。
小学校時代の担任、中村都祁子(ときこ)先生からの一枚である。当時、新任として山奥の小学校へ赴任された、ぴちぴちの先生だった、と思う。時間フィルターがかかり、断定できないが、ぱっちりとした目と赤い頬が記憶にある。読み聞かせてくれたのは、松谷みよ子の「龍の子太郎」。その続きが待ち遠しく、毎日先生が読んでくれる数ページを、私だけでなく、クラスみんなが楽しみにしていた。それは当時、国際アンデルセン賞など各賞を獲得したばかりの、最先端の?児童文学だった。
先生との年賀状は、ずっと今まで続いていたわけではない。私とのやりとりが途絶えても、なぜか母とは続いていた(らしい)。私とのブランクは母が埋めていた。母が亡くなってから、母からの年賀状が「毎年楽しみだった。」と書いてくれた。数年前、拙句集「背なでて」を差し上げた際には「ず~っと会ってないけど、ず~っと繋がってる」と書いてくれた。
先生は、今、渥美在住。「あかばねひらがなの会」代表として活躍されたり、また、合奏団「トライアングル」でチェロを担当されたり、ご健在である。もちろん、コロナ禍でもコロナでなくても「ず~っと会ってないけど、ず~っと繋がってる」も、健在である。
早春は土手を歩いて来たりけり       かの子

 



第19回若竹ウェブ句会(2022年1月募集)

(特選のコメントは百字以内で必須、入選コメントは自由)
今回も、夏雲システムの「結果のエクスポート」の設定を生かした編集結果になっています。

6点句 母の余命父には言えず年明くる         こう子
特選 佳楓 入選 百代・彰・冬青・すーちゃん・ビビサン
特選 一度して、胸にぐっと込み上げる物がありました。お父さまも多分高齢で心身共に弱っておられることと、読ませて頂きました。今日言おう、明日言ってしまおう、と思っておられる内に、お正月が来てしまったのですね(佳楓)

5点句 ひわひわと生き長らへて古女噛む         佳楓
特選 垣内孝雄・ケン 入選 蒼鳩 薫・康子・すーちゃん
特選 「ひわひわ」、オノマトペが活きた句。(垣内孝雄)
特選 いいね〜。大病もせずになんとか生きてごまめ噛む、ほっこりするね。句のリズムも本当にいいですね。(ケン)
入選 オノマトペの「ひわひわ」が効いていますね。なかなか思いつかないですね。また古女を「ごまめ」と読む読み方も勉強になりました。(蒼鳩 薫)
「ひわひわと」が絶妙で、弱々しくもしぶとい感じが伝わってきます。(康子)

5点句 冬ざれや鎖(さ)されしままの展望台       帰心
入選 百代・ケン・みな子・冬青・こう子
入選 冬ざれを強く感じるのは、鎖されたまま、人気のない展望台だ。(みな子)

4点句 書初やためらいもなく一画目         ビビサン
入選 帰心・康子・佳楓・こう子
入選 堂々とした勢いの良い筆致なのでしょう。(康子)

4点句 湯に浸れば顎(あぎと)に柚子の寄り来たる    帰心
特選 彰 入選 蒼鳩 薫・ケン・ビビサン
特選 映画「八墓村」で鍾乳洞内のある地点を「りゅうのあぎと」として聞き、調べつくして「あご」のことであると知りました。この句ではほのぼのとした感じで使われています。(彰)
入選 冬至には私も柚子風呂に浸かりました。なるほどと俳諧味に共感しました。(蒼鳩 薫)

3点句 雪花絞りの藍鮮やかに冬の晴れ         みな子
入選 蒼鳩 薫・彰・康子
入選 鮮やかな有松の雪花絞りの青と冬晴れが響き合っていると思いました。(蒼鳩 薫)
青空に藍の雪花が翻り、さぞかし美しい景だろうと想像します。(康子)

3点句 喰積の真中にどしり玉子焼            康子
特選 みな子 入選 垣内孝雄・帰心
特選 卵焼きの大好きな家だろう。喰積のメインが玉子焼き。どしりがよい。重量感のある堂々とした玉子焼きだ。(みな子)
入選 買うにしても、こさえるにしてもお正月の玉子焼は美味しいですね。「真中にどしり」共感です。(垣内孝雄)

3点句 正月や苦なき楽なき薬のむ            ケン
入選 帰心・こう子・佳楓

3点句 さがり花辺野古の風に狂ひ咲く          佳楓
特選 康子 入選 ケン・彰
特選 さがり花の一夜限りの儚さと、辺野古の海の長き闘いの対比、そして季語から、この闘いが夏も冬もさらに一年中あると示唆されているようです。(康子)

3点句 七草の仕上げは塩のひとつまみ       すーちゃん
入選 垣内孝雄・ケン・こう子
入選 粥の味は塩が決め手、さぞかし美味しい七草粥が出来たことでしょう。(垣内孝雄)

3点句 なかったことにして手袋を外す       すーちゃん
特選 こう子・ビビサン 入選 彰
特選 あったことは何かしら? 作者の気持ちの切替え方が「手袋を外す」で上手く表現されていると思いました。(こう子)
特選 句の前半は具体的なことは何も書かれておらず、後半の手袋を外す動作によって、読者の側に想像がゆだねられ、奥行きのある世界が広がります。作者の心中が ちらちら見え隠れするところに魅力を感じ特選にしました(ビビサン)

2点句 古びたる街の教会雪明り           垣内孝雄
入選 蒼鳩 薫・ビビサン
入選 クリスマスイブの夜を想像しました。雪明りに立つ教会は風情があるなと思いました。(蒼鳩 薫)

2点句 冬茜車窓は影の街映す             みな子
特選 帰心 すーちゃん
特選 「街の影」でなく「影の街」と表現されたところが秀逸。影絵のような幻想的な情景が目に浮かびました。(帰心)
特選 車窓に映された「影の街」の美しさとともに、空の鮮やかさも感じます。冬茜に浮かび上がる束の間、幻想的なシーンのようです。(すーちゃん)

2点句 いくそたびかはすげんまん返り花       垣内孝雄
特選 蒼鳩 薫 入選 すーちゃん
特選 幼かった頃、好きな子と結婚を約束したのかもしれません。甘酸っぱいロマンが季語返り花と響き合っていいなと思いました。もしかしたら、その子と結ばれ、思い出にふけっているのかなとも思いました。(蒼鳩 薫)

2点句 天つ日やピンピンコロリを抜参る         ケン
入選 垣内孝雄 佳楓

入選 天寿を安らかに全うしたいは皆の願い。(垣内孝雄)
入選 ピンピンコロリなる言葉を忘れかけていました。ピンピンコロリ地蔵やぴんころ地蔵が長野県にあるようですね、有り難うございました。寝たきりで、長く生きる事を「ネンネンコロリ」 と言うそうです。(佳楓)

2点句 をさまりて鶴首壺の寒椿           垣内孝雄
特選 百代 入選 みな子

特選 新年を寿ぐもてなしの心遣いを、設えに感じ、句にも感じられて嬉しくいただきました。(百代)
入選 この寒椿は、赤か白かと思ってしまう。私的には白であってほしい。(みな子)

2点句 霜焼けし小菊ひと束(たば)厠窓          彰
入選 百代・帰心

1点句 元朝や古里の宮異界めく             百代
特選 普段は清らかなだけの場所の神社に、元旦の朝は年神様の存在が感じられ、人々も神妙に振る舞っている様子が、上手く表現されています。(冬青

1点句 凍てし夜のパイプオルガン音澄みぬ      蒼鳩 薫
入選 しみじみとパイプオルガンの曲を聞いている。教会の中か。寒さと澄んだバイブオルガンの音が響き合う。(みな子

1点句 百歳の義父の声聞く冬うらら           康子
入選 冬うららに包まれたなどかさ安らぎ。(垣内孝雄

1点句 すわ雪じゃ一人吟行敢行す            康子
入選 「すわ雪じゃ」の上五の思い切った感嘆詞の使い方にビックリ致しました。作者の弾む気持ちが、この感嘆詞に、全て表現されていて、気持ちの良い秀句だと私には読み取れました。(佳楓

1点句 先ず三つ赤丸付けし初暦             百代
入選 楽しい予定に丸を付ける笑顔の作者が浮かびます。(康子

1点句 しちさい七彩のステンドグラス初明り     蒼鳩 薫
入選 ステンドグラスを通した初明かりの美しさを見たいものだ。(みな子

1点句 叩かれて地軸を廻す喧嘩独楽           佳楓
入選 すーちゃん

1点句 虎落笛ルールブックを捨てたき日         帰心
入選 ビビサン

1点句 心辺(ば)へよき人達と枯木山           彰
入選 冬青

1点句 発電所の煙り真横や寒に入る          こう子
入選 冬青

〈俳句気まぐれエッセイ➉ 出会い 〉    今泉 かの子
小さなレストランで私は夫と二人、簡単なランチをとっていた。少し離れたところに、日本人らしい四,五人のグループが談笑しながらテーブルを囲んでいるのが見えた。そのグループがばらばらと席を立って、店から出ていくのを見るともなく見ていた。最後の一人がこちらへ体を向けドアを閉めた。その瞬間、私は「あれっ、ヨシオ君?」といきなり直感した。
ヨシオ君は、小、中学校の同級生。が、中学を卒業して一度も会ったことがなく、以来すでに十年以上の時が経っていた。しかも、場所はスイスのジュネーブ。そんな、こんな所にいるはずはない、と思いながら、どうしても確認したくなって、店を出て追いかけた。(一応、夫にはことわって。)
果たして、それは芳生君だった。彼は欧州に滞在中の芸術家なのだった。中学時代からすでに「画伯」と呼ばれていた。時のブランクや距離感を超えたこの出会い。小説ならさしずめロマンスへ発展する展開である。小説ではないので、過去の不思議なエピソードとして幕は閉じ、いたって平和に時は流れた。
その後、古井戸芳生氏は名古屋市の助成を受けてロンドン(大英博物館)にて滞在制作。県内はもちろん、銀座の画廊等で個展を開催。精力的に活動しているらしい。また、勝川駅近くに「カフェド ラ フルイド」という食と芸術を拠点とした店もある。
現在、志賀高原ロマン美術館で「古井戸芳生展」が開催されている。四月三日まで。テーマは「《新》表現の樹木」。興味のある方や近くまで出かけられた方は、是非一度足を運んでほしい。
そこには、時空を超えた出会いが待っているかもしれない。
田口線車輪にあそぶ冬の蝶         かの子