《正 賞》
渡 辺 悦 子 「栗生楽泉園」
《準 賞》
水 野 幸 子 「父と子」
《新人賞》
中 野 こと葉 「気 配」
《佳 作》
酒 井 英 子 「出雲新涼」
《努力賞》
島 崎 多津恵 「朝 凪」
岡 田 つばな 「形 代」
山 田 和 男 「光 陰」
高 山 と 志 「割烹着」
《 正 賞 》栗生楽泉園 渡 辺 悦 子
重監房跡地へ巣くふ蟻の塚
再現と知るも身に入む房の闇
監房の声なき叫び地虫鳴く
すがれ虫南京錠の幾重にも
冤罪てふ展示記録の冷まじき
秋声や観音寂びる焼場あと
野ざらしの大釜二つ赤のまま
小鳥来る撞く人のなき鐘撞堂
プロミンの秋光まぶし交流館
鬼籍名の増えし九月の納骨堂
実名を捨てし残生木の実落つ
看護師の声掛けやはき秋すだれ
鳥渡る偏見の棘取れぬまま
語り部の瘢痕流し秋の雨
秋澄める盲導鈴の目覚めかな
《 準 賞 》父 と 子 水 野 幸 子
西行も曾良も旅人鳥雲に
少年に山河の匂ひ五月来る
俎を男も使ふ麦の秋
草笛を吹く少年とその父と
灯台の女神めきたる夕の虹
海を見に来てゐる父の日なりけり
ハンカチを開きしごとく菖蒲咲く
残る人去りゆく人に月涼し
母よりも父恋ふ秋の蛍かな
能面の笑みに秋思のこぼれけり
秋の灯をともして暗き合戦図
媛山に仕へて鹿の鳴く夜かな
蟷螂の目に夕ぐれの海の色
星流る一つは遠き岬の灯
父と子の月日を重ね水澄めり
《 新人賞 》気 配 中 野 こと葉
天文時計鳴るモルダウの朧かな
風信子青くあなたの香となりぬ
時差ぼけの卯月ルソーの「夢」に入る
梅雨晴れてお宮参りの子の産毛
額の花チェロ八分の一サイズ
漆黒の亀の子の瞳に見つめらる
雑踏の顔顔顔や半夏生
かなぶんと電車を降りて金曜日
雷の前の一瞬犬立てり
人体のしくみの図鑑晩夏光
底紅の底見ゆ風の停留所
花柊少女はサンドバッグ打つ
冬ざれやオレンジの洋酒を少し
父と二人やふうふうと根深汁
指長きリストの楽譜冬日向
《佳 作》出雲新涼 酒 井 英 子
国引きの神話の浜や秋気澄む
秋風に吊して草履売る茶店
拍手は四つ大社の秋気張る
神楽殿の巨大注連縄風さやか
宍道湖の夕日柱や秋気満つ
秋蜆掻くや鋤簾(じょれん)に船傾ぎ
池の上に二人乗り出し松手入れ
命綱つけ松手入れ上枝から
秋興や泥鰌掬ひは縁結び
秋気満つ腕の太さの舫ひ綱
堀川に橋二十ほど雁渡し
屋根下げて秋の遊船橋くぐる
菊の香や八雲書斎の高机
八雲忌や楽の茶盌の大ぶりな
秋興や八雲の好きな長煙管
《努力賞》朝 凪 島 崎 多津恵
朝凪や輪島の海の真っ平ら
能登の灯を海に沈めて銀河濃し
海桐花咲く一両電車で巡る能登
銀漢の果てなくつづく能登の浜
ホテルの灯火蛾の灯となり更けにけり
蓼の花咲かせて能登のどんづまり
能登の海渚を月と走りけり
遠き灯は闇の綻び星流る
潮騒の一夜の宿や銀河濃し
寂しさに恋してしまう夏の月
千枚の棚田にそそぐ月明り
漆黒の遠流の島星流る
奥能登や砦のごとき風囲い
石文や能登の海鳴り夏の月
夏鶯倶利迦羅谷の昏きより
《努力賞》形 代 岡 田 つばな
端濡れて水無月祓ひの案内来る
どしや降りの名越の宮となりにけり
受付は村の信徒よ夏祓
形代の和紙の薄さよ小ささよ
傘とかさ重なりおうていて夏越
雨音に消されさうなる名越かな
形代に力を込めて書く名前
形代を撫づ親指の腹をもて
形代に母の名前を書き足しぬ
形代や川音激つ神の元
神官の手より形代風に乗る
神官の祝詞も吹かる禊川
形代の重なり合うて流れ行く
形代や目を閉ぢて聴く川の音
形代の流れて行くも雨の中
《努力賞》光 陰 山 田 和 男
懐胎の妻置き赴任春寒し
芥子菜の匂ひやここは異国の地
春興や人種の坩堝たる職場
異国の地馴染めば来たる花粉症
週末はゴルフ三昧夏一人
若人に中年混じる夜学かな
七色の沼からリフト青嵐
峰雲や道を横切るバッファロー
間歇泉高く激しく日の盛る
大南風渓流内の露天風呂
死の谷の膚を突刺す暑さかな
ヘッドライト霧に呑まれるデスバレー
塩湖凍つ轍真直ぐカーレース
バブル崩壊拠点無くなる寒さかな
冴返る帰国の前の大地震
《努力賞》割 烹 着 高 山 と 志
慰霊碑の掃除エプロンがけで春
エプロンのポッケ土筆でふっくらと
杉花粉マスクじゃ足らずエプロンまで
走り梅雨脱ぎっ放しのかっぽう着
紫蘇絞るエプロンまでも染まりけり
おみがきに汚るエプロン盆用意
光りおる鯛の鱗がエプロンに
エプロンに抱え秋茄子もらい来る
報恩講際立つ白のかっぽう着
除夜の鐘やっと外せるかっぽう着
新年や白きレースのかっぽう着
お年玉そっと忍ばす割烹着
お正月やっぱり馴染むかっぽう着
節分や福を集めるかっぽう着
三月や祝膳作りかっぽう着